進軍開始
お久しぶりです。全然書けませんでした...。
そこは焼け野原だった。
周りには焼け焦げた後の建物らしき物の残骸が散見する。
そして人の残骸も。
ボロ布を被り、大きな鎌を持つ『それ』は戦場だった焼け野原を歩き魂を集める。唐突に、『それ』の視線は一人の瀕死の少女に向いた。
なぜなら少女が『それ』を見つめていたからだ。『それ』は今まで人に見られた事は無かった。何を思ったか『それ』は息も絶え絶えの少女の前に立ち、少女を見下ろし問う。
『私が見えるか。』
「死神さん...?本で読んだ通り...。死神...さん、お願いがあるの...。」
『私に願うか。』
「お願い...私の体を魂をあげる...!だから...!だから私の代わりに生きて...!」
少女はもうあまり動かない体を必死に動かし、涙を流しながら懇願する。
『何故だ?』
「私...まだ何もしてないの。楽しい事...だから死神さんが、私の体で楽しい事をして。」
『それ』は悩んだ。この世界の機構でしかない自分が人の体を?と。だが『それ』の中では死者の遺言は尊ばれるべき物だった。口が勝手に開く。
『良いだろう。その体、貰い受ける。』
「ありがとう...死神さん...!さよ、なら...。」
『それ』は我に返る。少女の体は既に消え、気付けば
「私は...クリス...。」
視界には白い手が映り、長い脚も見える。銀の美しい髪を触る事も出来た。
死神は名前と体を手に入れた。魂を『人』の型に入れ、今まで感じた事の無い『心』に酔いしれる。
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「出撃...俺達は先に出発するんですよね?」
「そうだな。どのみちアルハム達が他の兵より先に私達に着くだろうからな。妥当だろう。」
「まだ新装備のテストしてないんですけどね...実戦テストなんてハイリスクやりたくないけど...。」
今回の戦争はシュレアにとって千年ぶりの規模、国同士の本気のぶつかり合いになる。しかも宣戦布告は届いた前提で侵攻を開始するという辺り、当代国王にとって負けられない戦という事が分かる。
「でも戦争を仕掛ける様に唆したのは...。」
「勿論、カルナだ。」
「回りくどいというか...俺達にとっても必要な事ですけど...。」
「アスカントへの不安は高まっていたしな。いずれ起こる出来事が今起こっているだけだ。」
「そうは言ったって...。」
俺達は王都から離れシュレア王国の端、アスカントへ向かう経路を進んでいた。今回はルリィさんは後方で負傷者の看護にあたる事になり不在だった。
「そういえばアスィ、鎧の調子はどう?動きにくかったりしないか?」
「少し慣らさないといけないけど...大丈夫かな。動きやすさも大丈夫よ!後はこの新しい武器は何?」
アスィが手に持つのは新しく作成した"簡易上位魔法再現兵装"...名付けて、『メガビーム砲』である。だが急遽作ってもらった物なので安定性なんて皆無だ。
「『墜星光条』を詠唱無しで撃てる武器だよ。上手く行けば、だけど。」
「そんな凄いものだったのね!この盾は投げてもいいの?」
「アスィの使いたいようにしていいよ。上手く行けば今後の参考になるからね...!」
今のアスィは今までの鎧に改良を加え、左手に大盾、腰に長剣を2本、背中にいつもの大剣、そして右手に『メガビーム砲』という重武装である。着けてる本人は平然と歩いている辺り、全く末恐ろしい。
(白兵戦は出来る...砲撃戦をもう少し出来る武器を作れれば...。)
「見えてきたぞ。『壁』だ。」
「全く...怪我人引っ張り出さなくてもいいんじゃねえかよ?」
「肋骨が折れたぐらいでは死なないぞ。それにもう治っているだろう?」
「そういう問題じゃなくね?」
「フフフ...久々の戦よ。私に敵う敵がいるかな...?」
「王よ、くれぐれも油断はしないように。アルビオは...大丈夫ですか?同士討ちになるでしょうが、貴方の力が必要になります。命を大事にして行動して下さい。」
「大丈夫だティエレ、躊躇いは...無いと言えば嘘になる。まだ国には父と母が居る...もし人質にでも取られたらどうしようか。それが頭から離れない...。情けない!覚悟を決めて来たはず...いや、これは覚悟でも何でもない...。私はメイファ様を理由に役割を捨てただけだ...!」
「悩み過ぎでしょう...。まあ、貴方ほどの騎士が簡単にやられる事も無いでしょうから心配はしませんが。」
「む、無論だ!私はメイファ様の盾であり剣!彼女の栄光が輝く限り私も共にある!」
落ち込んでいたアルビオは直ぐに立ち直り、先程とは真逆の勇ましい顔になっていた。
「このまま進めば陣を張る地点まで行けるだろう。そこで準備を整え、そこから進軍する。大丈夫かい?」
「了解ですアーサー。最適な判断でしょう。」
「ハハッ、聖騎士とやれる機会と生きて巡り会えるなんて夢にも思わなかったぜ...!ああ昂るなあ!」
アルハムとルインが今後の行動について話し合う中、アモンはアロンダイトを手に恍惚とした表情をしていた。そんな彼に、脇から歩み寄るのは小柄だが豪奢な鎧を着た少女だった。
「アモン、はしゃぎすぎて死なないでよ?」
「仕事中だぜ?『ガウェイン』?」
「あっ、ああそうね。...『ランスロット』。」
「フンッ...気が抜けねえけどな、アリュール。」
「そうよ!...ねえ、この戦いが終わったら今度こそお父さんとお母さんに...。」
「あ?畑の手伝いならこの前...あっ!」
「そうよ!」
アモンは少し思い出す様に首を捻る。その様子をアリュールと呼ばれた少女はキラキラとした瞳で見詰める。
「去年のやつの収穫がまだか...まあ誰か雇えば良いよな。な?」
「......ええ、そうね。」
「心配するな。さっさと終わらせて国に戻るさ。お前のパイは美味いからな。」
「...!生き残れたら作ってあげる!」
「おう!」
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「よし、ここで大丈夫だろう。」
「ここが最適ですね。...皆さん!後方部隊が到着するまで待機。到着し次第進行を再開します。」
ルインの号令で騎士達や集まった腕利きの冒険者達は各々休憩や武器の整備にあたる。
「全く...こんなのどかな日に戦争...。」
「仕方が無い。こうなってしまっては止められないさ。お前の世界でも人は争っているだろう?違ったか?」
「あ、いえ、合ってます。でも俺の世界ではもっと陰湿で、そう...代理戦争って感じでした。黒幕が正義と悪を操ってそこから利益を産んでて...。」
「『地球』も大概だな。人はどの世界でも変わらない...悲しいが嬉しい事だ。」
「?どういうことです?」
「いずれ分かるさ...。」
クリスさんはふふふと微笑んでそれ以上は喋らない。本当に綺麗だなと見蕩れていた横から脇腹を何者かに小突かれる。
「...構って。」
「ご、ごめんなさい。」
「浮気よ浮気!お父様に言いつけてやるんだから!」
「それはホントダメだから!洒落にならない!」
怒られるで済まないだろうなあ...
「そりゃあわたしはまだ年もそんなだし大人の色香?そう言うのは無いけど...。」
「アスィはそのままでも魅力的だよ。可愛いし綺麗だよ。ドレスを着ていた時はもっと。」
「ほ、ほんと?でも私胸だってそんなに大きくないし...。」
「そんな事無いよ。気にしなくたって良い。」
「良かった...!」
とは言っても、俺のクラスの同級生とは比べ物にならないんですけど...。
アスィもこれで安心しただろう。
「じゃあセイエイは脚派?それともうなじ?それとも...腋?」
「えっ、あっ、そっち?」
「えっ。」
「えっ。」
俺とアスィは顔を見合わせ、数秒固まる。しばらくして、アスィは急に恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「あ、いやこれはそのお...。」
「なんだ、体の事を気にしてたんだ。それなら早く言ってくれれば良かったのに。」
「でも、セイエイの好きな体じゃないとって...。」
どこまでいい娘なんだ...。
「言おうとした事だけど、俺はアスィが好きなんだ。アスィの体は......言っちゃえば凄い好きだけど、体を好きになった訳じゃないから。好きな体だけども。」
「あひ...ありがとう?...ひゃー...!」
「可愛い...。」
アスィは一度噛んで礼を言った後、急に両手を頬に当て照れ始める。表情がコロコロとかわる様子は実に愛らしい。
「アスィはさ...もう覚悟とか出来てるんだよね...?」
「覚悟というか、本能?かな。戦いの前は心が躍るの。セイエイを守れるし、覚悟は二の次、かな。」
「アスィは凄いな。俺はまだ人を殺めるのに抵抗がある...。方法が、人を殺さずに戦争を終わらせる方法があるかな...?」
俺の願望を聞いたアスィは静かに微笑む。
「誰も死なない戦争なんてあるの?地球にはあった?」
「......無い。」
「そう。...セイエイが嫌なら、私が代わりにやるだけ。ねえ、セイエイ。」
「...。」
「私が死んだら、泣いてくれる?」
アスィはそのセリフを微笑みながら俺に投げかけてくる。俺は無意識にアスィを抱き締めていた。
「セイエイ?」
「ごめん。俺はやるよ。アスィを、皆を守る為。アスィと地球に帰るために...!」
「...ありがとう。大好き。」
「俺もだよ。」
「...。」
二人を簡易テントの外から見守っていたクリスは静かにその場を離れる。
(私も...あの子に抱き締めて貰えるだろうか。『好きだ』と囁いて貰えるだろうか。)
「私を...愛してくれるだろうか...。」
ぼちぼち書いていきたいですが...!