死を以て
遅れましたが今回も宜しくお願いします。
「抵抗はよせ。無駄死にはしたくあるまい。」
「はあぁ......うるさい!さっきから頭に声が響くんだよ!『敵を殺せ』って!!ううう...あああっ!ああ!」
「アレは...!」
見るとメルテの顔には静脈とは違った色合いの薄く光る青い筋が浮かび上がっていた。
(精神汚染系魔法の際の症状...!そうまでしてこの少年を殺したいのか!?)
「うわあああああっ!!!」
「ならばッ!」
「っあ...。」
リリアナは盾を構え突撃して来るメルテの背後に回り込み、手刀で盾を持つ左腕を切り落とす。
「畜生ッ...!チクショオオオオオ!!!」
「せああっ!!」
「うっ...あっ...。」
両腕を失ってなお抵抗するメルテの腹部を、リリアナの手が貫く。そして、それをゆっくりと引き抜く。メルテは力無く倒れる。
「アラム...ベリーだ...!」
「なんだ...?」
「そうだ...足りなかったのはアラムベリーだ...はは...。早く...フルーツケーキのレシピ...メモ、しなきゃ...!」
「ッ...!」
メルテは倒れ伏したまま、必死に無い腕を動かそうともがく。
「...アルフレートの感想、聞いてないのに...な...。」
メルテはそう言ってそのまま動かなくなる。リリアナはその前で何かが抜けたように片膝を付く。
「何故こんなにも虚しい事をする...!?こんな事...何の意味も...何故だ...ッ!」
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「ハッ!」
「コイツっ!速い!?」
「アスィ様!無闇に動くと逆効果です!」
「分かってるわよっ!でもっ!コイツっ!すばしっこい!」
「フッ!」
「ああっ!」
凄まじいスピードで動くカイトの攻撃にアスィとティエレは翻弄されてしまっていた。的確に隙を突くカイトの一撃がアスィの肩に当たる。運良く回避出来たアスィだが、鎧には幾つもの傷が付いていた。
「シッ!」
「ハアッ!!」
ティエレに攻撃を防がれたカイトは反動で後退しつつ霧の様に姿を消す。
「またこれ...!」
「アスィ様、気を付けて...!」
(こういう時はセイエイの言ってた通り、『明鏡止水』ってヤツよね....!落ち着いて私...大丈夫、一撃で決めれば良いのよ...!)
「アスィ様...!?」
アスィはその場で目を瞑りながら静かに大剣を構える。
(......今だッ!)
「そこおおお!!」
「!?」
「今のを見切られた!?」
カイトは間一髪大剣を避けるが、持っていたダガーを失ってしまう。カイトはまたも姿を消す。
「次は決めるわ...!」
(魔力の流れを感じれば...!!)
アスィの頭の中では全ての物体を魔力の集まりとして捉えるレーダーが出来上がっていた。アスィはゆっくりとその精度を上げていく。
(アレを避けたらダメ...肉を切らせて、骨を断つッ!)
「ハアッ!」
「くあっ!...捕まえたあああ!」
「...!?!?」
カイトの渾身の一撃がアスィの心臓を鎧ごと貫こうした時、魔力を鎧の胸部分に集めてそれを弾き返す。そしてカイトが一瞬怯んだ隙をアスィは見逃さず、すかさず左手でカイトの右腕を掴む。
「逃がさない...!!」
「...クソッ。」
「コイツ!」
カイトは自分の右腕を切り落とし、拘束から脱出する。
「チッ...!」
「次で終わりよ...」
カイトは右腕の断面を抑えながら姿を消す。アスィは大剣を緩く構え、静かに気配を探る。
(......見えた...!!)
「ハッ!!」
「そこおおおお!!」
「しまった...!速い...!?」
アスィは躊躇い無く左に半歩分素早く移動し、カイトの攻撃範囲から抜ける。空中で無防備になったカイトにアスィは渾身の斬撃を叩き込む。
「何故だ...?」
体を二つにされ仰向けに倒れたカイトは力無く呟く。
「勘...かしら。」
「ハッ...ふざけんじゃねえ...ふざけ過ぎだァ。」
カイトは空に手を伸ばす。
「アイツらの面倒...見てやらねえといけねえ...のに...俺が...こんな...所...で...。」
その手は力無く倒れ、カイトはゆっくりと瞼を閉じる。
「もう...ダメ...。」
「アスィ様っ!」
アスィはフラフラとした後、小さく呟き糸が切れたように倒れる。ティエレはそれを素早く支える。
「セイエイ殿...どうかご無事で...!」
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「死ねえーーーッ!!」
『くっ!』
「こんな使い方を...!?」
アリスは長剣を接続したワイヤーの根元部分を持ち、それを振り攻撃をして来る。広範囲かつ絶大な威力の攻撃を前に俺とは手を出せずにいた。
『セイエイさん!僕が隙を作ります!彼女を取り押さえて下さい!』
「でも彼女は...!!」
『やるんです...!まだ何も試して無いなら諦めちゃダメなんです...!!』
「...分かった。」
『ありがとうございます!行きますよ!』
(俺達にどうにか出来る事じゃ無いけど...!)
「セイエイッ!」
「は、はい!」
「貴様、エクリジットの言う事を本当にやるつもりか?」
「...他に方法は無いんですか?」
「無い。こうなった以上、殺すしかあるまい。お前が余計な苦しみを味わわせたく無いと思うなら、な。」
(板挟み状態だッ...!だが...!!)
「クリスさんすいません!俺は...まだ諦め切れません!」
「この大馬鹿者がァ...!!」
俺とエクリジットは同時に踏み出し、荒ぶるアリスに突撃する。
『アリスーーーッ!!』
「ぐうっ...!!」
エクリジットは油断していたアリスにタックルを決める。アリスは咄嗟に交差させた剣で防御するが大きくたたらを踏む。
「うおおおぉぉ!!」
(今しかない!取り押さえればこっちのものだ!)
「読めてるんだよッ!」
「はっ...!」
俺がアリスを押さえようと接近したその時、アリスの鎧の背中部分から四本のワイヤーがこちらに向かって飛んで来る。先端には棘の様なものが付いている。
「クソッ!ま、不味い...!?」
飛来する四本のワイヤーの内三本は回避する事が出来たが、時間差で来た一本が俺の鎧を貫き左肩を貫通する。
「ああ熱いッ!!...しまった!?」
「いやあああアッ!!」
「止めろーッ!!!」
赤熱したワイヤーに左肩を中から焼かれる痛みに悶えてる内に俺の眼前には長剣を振りかざすアリスが迫っていた。
そして辞世の句を詠めと言わんばかりに世界がスローモーションになる。クリスさんが何かを叫んでいるのが見えた。
(ミスった...俺はここで死ぬのか...。クリスさんの言う通りだった...畜生っ!)
アリスの長剣がゆっくりと迫る中自分の行動を悔やんでいると、唐突に懐かしいさを覚える感覚がする。それは以前にも感じた事のある感覚だった。
(この感じ...まさか!)
心の中に居る何かに話しかけるつもりで叫ぶと、返事はすぐに帰って来た。
(よお相棒...久しぶりだな。)
「よお『俺』。今度は何だよ。俺を責めるのか?俺の甘さが原因だからな、いくらでも責めてくれよ...!」
(それはナンセンスだ相棒。まだ死んじゃいない。少し体を借りるぜ...?)
もう一人の『俺』はそう言うと薄く微笑む。
「何をする気で...まさか。」
(そうだ。お前が招いた結果を変えてやる。相棒、お前の事だから分かってるとは思うが...お膳立てはしてやる。トドメはお前が刺せ。)
「そ、そんな...!」
(これ以上苦しめる訳には行かねえ。分かったらそこに居てろ。決心ついたら戻って来い...!)
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「...何で?」
「セイエイ...いや、違う!」
アリスは目の前で起きた事が信じられなかった。この男は今明らかに殺せたはずだ。だが、男は自分の剣を掴んでいる。その力は強く、男に掴まれた剣は微動だにしない。
「何!?お前は何なのッ!!」
「俺は『俺』だよ。」
変な切り方ですが何卒です。
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