年貢の納め時
大変遅れました!今回も宜しくお願いします!
「はああぁっ!」
「フッ!」
クリスとアリス、二人の剣がぶつかり合う度火花が飛び散る。
「いやあッ!!」
アリスは大きく後ろに跳躍すると、両手の長剣を凄まじい速度で投擲する。
「甘いッ!」
クリスは投擲された二本の長剣を大剣で即座に弾き返す。アリスはワイヤーを素早く引き戻し、長剣を回収する。
「面倒だな...。」
「クリス様!村人の避難はある程度終わりましたが...。」
「が、なんだ!!」
「アリス!やっぱりアリスだ!」
「エクリジット...!」
今まで寡黙だったアリスはエクリジットの姿を見て初めて大きな動揺を見せた。
「何で来たの!」
「あんないきなり言われて信じられるもんか!アリス!戦いを止めるんだ!クリスさん達とアリス達が殺し合う理由なんて...!」
「殺し合う理由なら、ある。」
「え...!?」
アリスの後ろからふらっと鎧を着た男性が現れる。その男性を視界に捉えたアルビオは驚愕の表情を浮かべる。
「なっ...!エイザ!君は我が友エイザだろう!?」
「誰かと思えば...アルビオか。だが、その名前はもう無い。エイザ・ラグーンは死んだ。今の私は使い捨ての聖騎士、アルフレートだ。」
「そんな事受け入れられるか!エイザ!俺はお前が任務中に死んだと聞かされていた。教えてくれ、何があった?」
「あの老害...キュレアデアの企みでこうなった。フフフ...何をやらされるかと思えば、干からびた従わないゴミ共の掃除。果ては分不相応な神殺しと来た。」
アルフレートは微笑みながらひとしきり喋った後、首を傾げる。
「だが少し分からないな。アルビオ・テンダ、何故お前がここに居る?アスカントは今王都を攻めるための準備をしているぞ?主は悲しんでいるぞ。フフフ...。」
「私はとうに聖女に身を捧げている。ならば私からも聞こう。エイザ、君は何故彼等の、『ポリュージョン』を管理する?」
「アルビオ、『ポリュージョン』はもう無い。ここに居るのは『量産型聖女』とそのサポートに過ぎない。」
「何を言い出す...!」
「この際だ!洗いざらい話してやる。私達は聖女メイファの力を再現するべく構成された強化兵士部隊だ。そして体には身体能力を強化する魔法陣を刻んである!アリス、見せてやれ。」
指示を受けたアリスは黙って指を涙袋の位置に持って行く。すると、アリスの黒目に魔法陣が妖しく輝き始める。
「こういう事だ。私も含め、彼等には裏切り防止として心臓を始め体のいたる所に魔法陣が刻まれている。もしも裏切りが判明すれば...どうなるかは分からないが、苦しむ。アリス達にそれは酷だ。だから戦い、そして死ぬ。それこそが救いなのだ。」
「何故だ!何故そこまでする!?君は正義の誉れ高き騎士だった!何故だ!?」
「私は温もりを知らなかった、感じなかった。だがアリスは!アリスの肌からは温もりを感じる事が出来た...!アリスは私の母となってくれた女だ!そのアリスが!その狼人を命と引換に導くと言うのなら!...私も、共に逝こうと言うだけだ。」
「エイザ...いや、アルフレート。かつての友。今ここで聖女の御許への引導を渡す!」
「行くぞ...私達の死が無駄では無かったという証の為に...!」
「アルフレートオオオッ!」
「アルビオッ!」
アルフレートとアルビオは互いに叫びながらぶつかり合う。アルビオの洗練された優雅な剣技とアルフレートの合理的な剣技は拮抗していた。
「流石は聖騎士隊長。だが遅い!」
「なにっ!?」
しっかりと握っていたはずのアルビオの長剣を、アルフレートは一瞬の隙に渾身の一閃を決め弾き飛ばす。
「もうすぐ死ぬとしても、戦う以上殺す時は殺さねばならない。許せ、アルビオ。」
「やらせませんよ。」
「何?」
アルビオへと振り下ろされたはずの剣はティエレの持つ黒い両剣によって止められる。
「ティエレ!すまない!」
「死神殿!貴女はアリスという彼女の相手を!二人がかりでも王の敵は倒しますよ...!」
「量産型の聖女か...これもまた私の役目、か。ならば、魂の世界へと私が導いてやるッ!」
「止められないのか...!?僕は、どうすれば...!クソおッ!」
収まる気配を見せない大切な人の戦いを前に、エクリジットはただただ自分を呪うしかなかった。
(どうすればいい...!考えろエクリジット...!考えるんだ......もう、どうなってでもやるしか無いんだ!父さん、母さん、ごめん!)
エクリジットは以前アスィから受け取った長剣を両手で持って構え、一直線にアリスに向かって突撃する。
「うおおおおおッ!」
「エクリジット!?やめろ!止せ!」
「...ッ!!エク!?」
アリスは反射的にクリスの視線の先に居たエクリジットに長剣を投擲してしまう。
「避けてッ!」
(応えろよボクのスキル!今やらなきゃ...今命を賭けないとダメなんだ!僕は今度こそ...自分の意思で、大切な物を守ってみせる!)
迫る長剣を目の前にし、エクリジットは頭の中に出て来た言葉を全力で叫ぶ。
「頼むよッ!!"バーサーク"!!!」
突如エクリジットの体が光に包まれたかと思うと、いつの間にかそこには雄々しき巨大な白狼が佇んでいた。
『もう止めるんだアリス。もう戦わなくていい。きっと魔法陣を消す方法だってある。だからもう、こんな悲しい事は...。』
「ッ...。」
「アリス!!甘言に耳を貸すな!」
「分かってる!分かってるよ!エク!私が好きなら死んでっ!!私をこれ以上苦しめないでよ!」
アリスは泣き叫びながら赤熱した長剣を構える。白狼になったエクリジットはそれを見詰める。
『今の僕なら戦える...!こんな悲しい事、もう止めなきゃいけない...!』
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「オラッ!!どうしたどうしたァ!!」
「こんの...ガキが...!!どわあっ!」
「ヘヘヘ...すぐに殺してやヴッ!ガハホッ!グハッ!...あああぐぐぐ...!!」
ウェーブの掛かった髪の少年、メルテの力任せの剣による攻撃を受け切れなかったガングは軽く吹き飛ばされてしまう。そこに慌てて駆け寄ったルリィによって助け起こされる。
メルテは苦しそうに咳き込んだ後、大量の血を吐き出し苦しそうに呻く。
「なんだあの馬鹿力...!」
「さっきの話が本当なら、彼も体中に魔法陣を刻まれているんですね...。あんなに苦しそうにしてるのに...私と同じかそれ以下の子を殺すんですか...!?」
「可哀想なんて言ってられないだろルリィ。苦しんでんなら、楽にしてやらないといけない。ルリィ、苦しみながら死ぬなんてその方が可哀想だろ?」
「でも、こんな事...悲し過ぎますよ...!それでも...彼が救われるなら...!..."リュカオンの名の元に希う。哀しき者を慈悲の光を。哀しき者に死の安らぎを。"どうか、救いを!アーマール様っ!」
ルリィが澄んだ声で頁の文を読むと、本から眩いばかりの光が放たれる。光が収まると、二人の目の前には高貴なオーラを放つ輝く白い竜が居た。
『汝、何を望む。』
竜は輝かしい光を放ちながらメルテに問いかける。
「僕は...何時か兵士を辞めて...自分の店を持ちたいんだ...オリジナルのケーキを作るんだ!」
『我を呼びし者、汝は何を望む。』
「ええ!?...私は、皆と一緒に居たいです。それだけです。」
『汝らの純なる心、確に視た。我は齎そう。慈悲の光を。』
竜は飛び上がり一瞬で雲を突き抜ける。すると、突き抜けた時に出来た雲の穴から一筋の光がメルテへと注がれる。
「ああぁっ...!!あぐあっ!...ゴホッ!ガハッ!」
メルテは突然悶えて苦しみ出し、またも血を吐き出しのたうち回る。剣を支えにして起き上がるが、その目は正常な人間のそれでは無かった。
「なんで...アーマール様の光は癒しの光だって書いてたのに!そんなっ...!私の...せい...?」
「落ち着け!大元はあのクソッタレの神様だ。簡単には解けない様にしてるんだよ!取り敢えず危ねえから座り込んでないで離れろ!コイツは俺が倒す!」
「うう...。」
(さっきの竜が放った光で一瞬は元に戻った様に見えたが...!どうやら、俺達の敵は性根が腐り切ってる様だな...!)
「オラ来い!相手してやる!」
「うるさい!!焼けろよッ!」
「はあっ!?」
メルテは盾の中心からから太い光線を放つ。ガングはそれを間一髪で避ける。
「一発でも当たったら終わりってか...!?魔法の火力も馬鹿げてやがる...!」
「ユヴェーレェェェェンッ!!!」
「あの宝石!...まだストックがあったのかよ...!!」
メルテの盾から先程より多い大量の宝石が飛来する。
(何だ?さっきとは明らかに違うぞ...遅い...?)
宝石から飛ばされる光弾の狙いの正確さは失われ、回避はとても容易くなっていた。
「本当に限界みてえだな...!年貢の納め時ってヤツだ!行くぜ!」
「クソッ!クソッ!死ね!死ねぇ!!」
「おわっ!?さっきよりも馬鹿力が強くなってんじゃねえか!?なんてこった...当たったら死ぬぜあれ...。」
メルテの力任せの剣の一撃は地面にめり込み、周りの土が隆起する物だった。ガンクはそれを冷静に分析し、突撃する。
「うおおお!せいっ!!取ったあ!」
「ぐあああ!!うらあっ!!」
「なっ...。」
「嫌っ!ガングさん!!」
メルテの剣を持つ右腕を槍で切り落としたガングに向かって、メルテは盾を構える。咄嗟に槍で防御したガングだが、そのまま槍ごと盾で殴られ吹き飛ばされてしまう。
(油断した。このまま死ぬのか俺は...。セイエイと出会って結構楽しかったし...年貢の納め時は俺だったか...。)
吹き飛ばされ、建物に叩き付けられる寸前のガングは一人の人物に受け止められる。その人物はガングをルリィの側に寝かせる。
「ルリィ、こいつを頼む。なに、まだ死んではいない。」
「リ、リリアナさん...。」
「では行ってこよう。」
リリアナは軍帽を傾け、静かにメルテへと迫るのだった。
なるべく早く上げるよう頑張りますが、期待せずに...何卒...