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【異世界転生先で】アジュールの魔女【女装して菓子作り】  作者: 衍香 壮
第2ルセット「魔女、城で菓子作り」
20/57

第20話「王子は舌鼓を打つ」

 *


「クローディ様、リク様が菓子を持ってきてくださいました」

「マディ、リクはまだいるか? 今日は通してくれ。それとエディに人払いの旨を」

「承知しました」


 マディはいつも通り会釈し、執務室を後にする。無表情で颯爽と歩く姿には、重度のドジを多々踏むような雰囲気は伺えない。

 黙っていれば美人なのに、という言葉があるが、彼女の場合、黙っていれば賢そうなのに、という言葉がピッタリだった。


(けして頭は悪くない。言われたことも出来る。けれど、少々注意力散漫なんだろうな)


 暫し待っていれば、リクが遠慮がちに執務室に顔を出した。それに笑みを深め、手招きすればおずおずと近付いて来る。その後ろをマディが付いてきて、後ろ手に扉を閉めた。


「人払いは?」

「問題ありません」

「リク、話しても良い。どうだ? 十日ほど経ったが進歩のほどは?」

「まだ試作段階だが、一応案はある。問題ないよ」

「そうか。試作品を食べてみたいのだがダメか?」

「今はまだ無理かな」

「残念だな。ところで今日の菓子は何と言う? 随分フルーツが沢山だな」


 リクが持ってきた菓子は苺、キウイ、ブルーベリー、桃と様々な果実が所狭しと飾られ、理屈は分らないが爛々と輝いていた。

 陽光に照らされ、あまりにも煌びやかに光るものだから、一瞬、造り物のようにも見える。


「フルーツタルト。中にはカスタードが詰めてあって、フランボワーズのソースも入っている」

「フルーツタルトか。お前の言うタルトという菓子は気に入った。丁度良い歯ごたえが面白い。

 どうしてこんなに輝いているんだ? 何をすればこうなる?」

「ナパージュを塗っただけだよ」

「ナパージュ?」

「乾燥防止も兼ねてフルーツの艶出しをする為にジャムを使うんだけど……今回はゼラチンを使ったんだ」

「ゼラチン?」

「ゼラチンはゼリーとかを作る時に使う材料」

「ほぉ、よく分からんが素晴らしいな」

「ありがとう」


 頬を緩め、瞳を柔らかくするリクは美しい。未だに男だと信じられないが、その声の低さが何よりも証明していた。

 素の表情。例えば笑った顔も男だ。「美味しい」と伝えれば幸せそうに笑む姿は一層、美しい。それでもその表情は男で、その度に彼が彼であることを知らしめる。

 菓子に関して訊ねれば、活き活きと説明を連ねるあたり、本当に菓子作りが好きなのだろう。


(余の菓子を作るのはこういう奴が良い。サナが誇りを持っていないとは言わないが。彼女は菓子に対して誠実でも、菓子作りに楽しみを見出していない。

 その点、リクは菓子を作るのが楽しいのだ。食べた瞬間それが分かるからまた口にしたいと思う。こういう点は技術云々ではない)


「うむ。今日も美味だ」

「ありがとう。あ、クローディ一つ訊いてもいい?」

「なんだ?」

「クローディもエディも、何で外では俺をアジュールって呼ぶの?」

「気に食わんのか?」

「いや、素朴な疑問」

「お前はまだ正式に城の者ではないからな。素性がばれぬに越したことはなかろう?」

「ああ、そっか」

「質問はそれだけか?」

「じゃあ、皆っていくつ?」

「歳か? 余は十九。エディは十五。マディは十六。カロンは二十五だ」

「え、俺クローディと同い年かよ」

「なんだ不満か? 光栄だろ? 王子と同い年だぞ?」

「いや、不満じゃねぇけど……」


 考え込むように顎に手を添え、黙り込むリク。まだ何かあるのだろうか、と菓子を咀嚼しながら待てば彼はやっと口を開いた。


「ま、いいや。ところでさ、バニラのことだけど」

「なんだ」

「あと一週間くらいで出来ると思う。そしたらよろしくな」

「そうか。なら目星が付いたら教えてくれ。時間を空けておく」

「ああ、ところでカロンは?」

「スラムに行った」

「スラム? 何で?」

「奴の出身だからな。マディ、エディと見張りを代われ、そしてエディには茶を持ってくるように伝えろ。少し休憩する。

 立たせたままで悪かったな。そちらに移動しよう」

「いや、いいよ。忙しいだろ?」

「別に構わん。気になるんだろ? カロンが」

「いや、そうだけど……」

「まぁ、座れ。余が許す」


 リクをソファへ誘い、対面するように腰を下ろす。少し緊張した面持ちの彼は、恐らくマディとエディの過去を聞いたのだろう。これからどんな話をされるのだろう、と身構えているように見えた。

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