第17話「魔女は悩む」
「甘味を摂取すると吐く体質?」
「ああ、昔からそうなんだ」
女装したままでは男子トイレに入れず、かと言って女子トイレに入ることも気が引けた俺は、結局自室に舞い戻ってきた。
味見をしトイレに駆け込んだ後、口を漱ぎエディに事情を話す。彼女はさして驚くわけでも無かったが、俺の言葉を聞き返してきた。
「それはまた難儀だな。何故それで魔女になった?」
「それぐらい菓子作りが好きだったんだ。幸い味覚は正常だし、吐く以外は特に問題ない。
普段作っているものは感覚でどうにかなるから困らないし、試作品も普段は一人で作っているから、さして困らなかった」
「成る程。それでどうだったんだ試作品の味は」
「二人の言っていた通り苦いな。何か混ぜて誤魔化せる苦みじゃない」
「じゃあもう一度か?」
「今度はプリンじゃないものを作る。アイスクリームだ」
「アイスにあれを入れるのか?」
「ああ、バニラは熱を加えることにより芳醇な香りを出す。恐らくこの国のバニラはその時、一緒に強い苦みを出すんだ。アイスは零下まで温度を下げる。その場合の苦みを検証してみたい」
結果は惨敗だった。強い苦みは消えず、アイスは残飯行き。熱を加えること自体が良くないようで、菓子作りにそれは致命的だ。
生クリームに混ぜるだけなら熱を加えなくてもよいが、鞘から香りを抽出する時には必ず熱を加えなくてはならない。
それにクリームに混ぜるだけで〝菓子〟など俺は納得出来ないし、自分は甘党だと豪語していた王子を降参させることは出来ないだろう。
プリン、アイス、スポンジ生地、グランケーキを作業台に並べ、俺は考えを巡らす。アイデアは一向に浮かばず、正直お手上げだった。
「アジュール様でも難しいですか……実はサナ様もグランケーキとアイスは既に試していたんです」
「そうだったな。クローディもそれを口にして顔を顰めていた」
バニラビーンズは熱に強い為、いくら火に掛けても問題ない。けれど、この国のバニラは、それによってかなりの苦みを誘発させてしまう。元の世界のバニラも苦かったけれど、この調理法で大丈夫だった。とういうことは。
(入れる量を減らせれば問題ないんだけど……)
俺は頭を抱え、項垂れる。そんな俺を差し置いて二人はあれやこれやと話し込んでいるが、俺の耳には届かなかった。