第11話「魔女は名乗る」
「どうしてエディを……」
「ソイツも読唇術が出来るからだ。ついでに護衛も兼ねてあるから、好きに使え。構わないな? エディ」
「クソ王子のお世話をしなくていいなんて、この上ない幸福でございます。異論はありません」
「……ということだ。エディはメイドの真似事も出来る。身の回りの世話も任せるぞ」
「エディは王子の護衛なんですよね? 俺なんかよりクローディ……さんに付いてなくていいんですか?」
「敬語じゃなくて良い。敬称も要らん。余は自分の身くらい自分で守れるからな。心配は要らんぞ」
「そういうわけだ。よろしくな」
「でも……」
「お前は、今、自分が危険な立場に在ると分かっているか?」
「え?」
「お前がいくら男であろうが、見た目は女。しかも美人だ。菓子作りをする者なら、アジュールの魔女の噂も聞いたことがあろう。
その魔女を城へ連れてきた。まず焦るのは誰だ? マディ」
「今現在〝城の大魔女〟を務めている者です」
「正解だ。では、エディ」
「魔女は当然、女。女の嫉妬は怖いからな」
「そういうこと。つまりいつ毒を盛られても、寝首を掻かれてもおかしくないというわけだ」
「おまけに花嫁の話もあるからね~、メイド達は躍起になって、王子の目に留まろうとしている中に美女登場。まぁ、嫉妬されちゃうよね~」
「そういうことだ。この城の女達は、敵だと思った方がいい。逆に男たちは、鼻の下を伸ばしていたからな。存分に女の武器を用いて味方に付ければよい」
「いや、俺、男なんだけど……」
「だからなんだ? お前がされて嬉しいことをしてやればいいだけだ。簡単ではないか」
されて嬉しい事。以前の世界でも、今の世界でも恋愛事には、てんで縁の無かった俺。暫し逡巡するも、良い考えは全く浮かんで来なかった。
「ないな」
「乾いた男だな。まぁ、よい。好きに過ごせ、余は基本ココにいる。菓子を作ったら届けるのを忘れるなよ」
「はぁ……」
「なんだその間の抜けた返事は。我らは勝負をしているのだぞ? もう少し覇気がある声を出せ。
離れに部屋を用意してある。生活に必要な物は一通り揃えてあるが、必要な物があったらエディに言え。大抵の物は見繕ってやる。それと、菓子作りに関して金に糸目を付けるなよ。足りない材料があったら言え。質問はあるか?」
「今のところは……」
「そうか。ところでアジュール殿。御前の名は何と言う」
「は?」
「アジュールは通り名だろう? 本名を教えよ」
「リシャール。リシャール・クラピソン」
「リシャールか。これはまた男か女か分からん名だな。愛称はなんだ? リクか? リッキー?」
「リク」
「そうか、ではそう呼ばせてもらう」
「分かった」
「晩餐を用意してある。エディに毒見させてから口にしろ。他の物も基本エディに与えてからだ。よいな。
余はこの後、用がある。エディ、部屋まで案内してやれ、またなリク」