夜明け
「…………みぃ?」
子猫は朝の光で目を覚ましました。
目を、覚ましました。
もう、一生目覚めないはずの目を覚ましました。
「みゃ? みゃ? みゃ?」
とりあえず、体をぺろぺろとなめてみる子猫です。
特に変わった様子はありません。
「みゅ? みゅ? みゅ?」
続いてあたりを見渡してみます。
特に変わった様子はありません――いや。
力つきた魔法使いが倒れていました。
「みゃ!!」
あわてて子猫は魔法使いの元に飛んでいきます。
そしてほっぺたを小さな舌でなめました。
「……ん」
どうやら魔法使いも無事なようです。
寝ぼけ眼で子猫を見て――がばりと跳ね起きました。
「にゃんこ!! どうして……」
「みゃ?」
子猫は首を傾げます。
魔法使いも首を傾げます。
答えはでませんでした。
「まあ……無事なら良いか」
「みゃ」
子猫は魔法使いの服の裾をくいくいとひっかきます。
その目は忘れてないぞというようでした。
「ああ……冒険ね。うん、またにしない?」
「みぎゃああ!!」
子猫、激おこです。
全身の毛がぶわっと逆立ちました。
その目は返答次第ではオマエの服の裾がどうなってもしらんぞといっていました。
「……年貢の納め時かあ」
「みゃ」
魔法使いは天を仰ぎ、子猫は満足げに鳴きました。
「そうだな……ツクモ、お前の名前は今日からツクモだ」
「みゃ!」
「で、俺の名前はマサムネ。よろしくな」
「みゃ!」
これが――マサムネとツクモの出会いでありました。
マサムネもツクモもまだ何も知りません。
ツクモがカミサマに選ばれた適合者であることも。
将来猫の種族を代表してこの平原を治めることになることも。
なにも知らない二人の前にはどこまでも青空が広がっていました。
二人の門出を祝福しているようでした。