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真夜中

からん。

魔法使いがポーションの瓶を投げ捨てます。

魔法使いが使っているのは一等安いポーションでしたがそれでも魔法使いにとっては痛い出費です。

そのポーションを魔法使いは三本も使っていました。


治癒(ヒール)!!」

「……みぃ……みぃ……」

「……大丈夫だからな。大丈夫なんだからな」


か細く鳴きながら横たわる子猫に魔法使いは回復魔法をかけ続けます。

もう夜もとっぷりとふけ、空には月と星が輝いています。


日没――子猫が木の実を食べてから。

魔法使いは子猫に回復魔法をかけ続けています。

尽きた魔力をポーションで回復して、また尽きるまで魔法をかけ続けます。


それでも。

子猫の具合は一向によくなりません。


魔法使いも分かっているのです。

これは怪我でも病気でもない。毒でも呪いでもない。

回復の魔法で治るようなものじゃない。

しいていうなら――カミサマに逆らったことへの天罰。


この世界には強くなれる者と強くなれない者がいます。

それはカミサマがお決めになったこと。

それに逆らうことは許されないことなのです。


治癒(ヒール)!!」


それでも。

魔法使いは魔法をかけ続けます。


例えカミサマがお決めになったことでも。

もう助かる見込みなんて微塵もなくとも。

こんなに苦しんでる子猫を見捨てるという選択肢は魔法使いにはありませんでした。


「なあ、治ったら一緒に冒険しようぜ」


そんな日はこないと知っています。

それでも。


「隣の国にいくと大きな武具屋があるんだって。猫用の首輪もいっぱい売ってるってさ」


それでも。


「もっと遠くの方いくと汽車が走ってるんだって。汽車分かるか? 鉄の塊が走ってるんだぞ」


それでも。


「なあ、俺強くなるから。俺強くなるから。だから!!」


それでも。


「こんなところで死ぬんじゃねえよ!!!」


「……みぃ」


子猫は。

かすかに笑ったように見えました。


どうして、一緒に冒険に行ってあげなかったんだろう。

どうして、自分はこんなにも弱いんだろう。

どうして、この子がこんなに苦しんでいるんだろう。


後悔が頭の中で渦を巻き魔法使いを飲み込もうとします。


「……治癒(ヒール)!!」


巻き込まれないように。

逃げ出すように。

魔法使いは魔法を使い続けます。

効かないと分かってなお――使い続けます。


それでも。


子猫の体からどんどん力が抜けています。

もう、かすかに鳴くことすらままならないように。


治癒(ヒール)!! 治癒(ヒール)!! 治癒(ヒール)!!」


それでも。

魔法使いは魔法を使い続けるのです。

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