子猫の夢
猫の種族は人気者です。
人間には使えない治癒魔法をささやかながら使える上に愛らしく気性が素直な猫たちは多くの人に愛されます。
ある時は、家の守り神として。
ある時は、冒険のお供として。
ある時は、小さな伝令として。
猫たちはもらわれていきます。
子猫の兄はパン屋に。
子猫の姉は花屋に。
それぞれもらわれて行き町で暮らしておりました。
けれども子猫はまだ小さいのでなかなか貰い手が見つかりません。
子猫たちが暮らす草原には毎日のように人間がやってくるのですが子猫を見ると「もう少し大きくなってからね」といって去って行ってしまいます。
「みぃっ!! みぃっ!!」
きょうも子猫はやってきた人間の足元をひっかきます。
「おやおや、子猫さんどうしたの?」
人間――子猫の言葉を話せる魔法を使える魔法使いでした、ここでは大魔法使いとしておきましょう――はそういって子猫の頭を撫でます。
『あのね! 冒険に連れてってほしいの!!』
子猫はしっぽを振り回しながら言いました。
『おやおや、そんな小さな体では冒険になんていけませんよ?』
大魔法使いは可笑しそうに笑いました。
『ち、ちっちゃくなんてないもん!! あたしおねえちゃんだもん!!』
子猫のしっぽがぶんぶんです。
けれども大魔法使いはくすくすと笑うばかり。
『あなたの妹たちはまだほんの赤ちゃんじゃないですか』
『あたしはちがうもん!! 魔法だってつかえるもん!!』
子猫はしっぽを振り回してえいっとばかりに小さなバリアを張りました。
ちっちゃくて薄っぺらいささやかなそれが、しかし子猫の全力でありました。
「みぃ……みぃ……」
子猫は肩で息をしながらどうだとばかりに胸を張りました。
大魔法使いは杖でこつりとバリアを叩きました。
さらん、と音を立ててバリアは粉々に砕けます。
『あっ……!』
「これでわかったでしょう?」
あくまでも優しく大魔法使いは言いました。
「あなたは冒険の旅に出るには弱すぎる。時が来るのを待ちなさい」
『っ……! でも……!』
子猫の耳がぺたんとなりました。
振り回していたしっぽもしゅんとなってしまいます。
そのとき
「どーした? にゃんこ」
そう言って優しく抱き上げてくれたのはあの魔法使いでした。