出会い
「みゃう……みゃう……」
黒い子猫が木の上で泣いていました。
登ったはいいけど降りられなくなってしまったのでしょうか。
ふるふると下をのぞき込んでは涙目で引っ込んでを繰り返しています。
「みゃう……」
「ほいよ。お姫様」
「みゃう!?」
突然の声に二本のしっぽをぴんと立てて声のしたほうを子猫が見上げるとそこにいたのは――人間でした。
何もない虚空にふわふわと漂っている人間――魔法使い。
子猫を抱き上げる手は暖かく――とても優しいものでした。
黒い子猫と魔法使いの――それが出会いでありました。
この世界には魔法を使う者たちがいます――というと語弊があるでしょうか。
簡単な魔法なら子猫だって使えます。
小さなバリアを張る魔法。ちょっとした怪我を治す魔法。ちょっぴり他人に力を与える魔法。
猫の種族が使えるのはその三つだけです。
それはカミサマがお決めになったこと。
この世界では種族によって使える魔法が決まっているのです。
その数少ない例外ーーカミサマに選ばれた者。
魔法を「覚える」ことができる者。
それが魔法使いをはじめとする「適合者」なのです。
彼は強い魔法使いではありませんでした。
むしろ弱いといっていいほどに。
空を飛ぶ魔法の他にはバリアを張る魔法。怪我を治す魔法。他人に力を与える魔法。
子猫の魔法をほんの少し強くしたようなそれが彼の精一杯でした。
それでも彼は魔法使いでありましたので少しずつでも新しい魔法を覚えることができます。
彼は覚えた魔法をたびたび子猫に見せに来ました。
ひゅんっ!!
空気の刃が木の葉を弾きます。
「みゃう!」
砕かれた木の葉にじゃれついて子猫は一声鳴きました。
ポン!
軽く飛び上がった魔法使いは何もない虚空を蹴飛ばして更に上へと飛び上がります。
「みゃう!? みゃみゃう……」
魔法使いの腕に抱かれた子猫はびっくりしたようにしっぽをぴんと立てておずおずと魔法使いにしがみつきました。
「高いところは苦手かな?」
魔法使いは笑いながら子猫の頭を撫でました。
そうして時は穏やかに過ぎていきます。