藍色の時間
今回空椿さんとコラボしました!
空椿さんの作品にでる子をお借りしまして書かせて貰いましたが、原作とは大きく違っている点があるかもしれません。
更に東方projectの二次創作設定も含まれます。苦手な方は戻るを選択してください。
とある居酒屋。そこのカウンターに一人の少女が、おちょこに入ったお酒をくいっと飲み込む。紫色の髪に花飾り。独特な着物を着たその少女、稗田阿求はちらりと壁掛けの時計を見やる。
もう時間過ぎてるんですけどね~。
今は十時十五分。約束の時間をゆうに三十分は過ぎている。真面目な性格である阿求は約束の時間の二十分は前にこの居酒屋に足を運び、相手が来た時にすぐにでも企画が始められるようにセッティングしていた。それなのに相手ときたら、待てど暮らせど現れない。
その来る相手のことは阿求自身は知らない人で……というか妖怪で。そいつの知り合いからは「気ままな奴」とだけは聞いていた。だけれども、時間を守らないのはどういう了見なのかと問いたくなってくる。
「どうしましょうかね~」
それなりにお酒が回り始めた。現在はほろ酔い気分であるが、これ以上の飲酒は体に悪いと止められている。
「早く来てくれませんかね~」
阿求はカウンターに突っ伏して、横目で入口を見る。なんだかこの体制では寝てしまいそうだ。しかし阿求は眠気を堪え、その気ままな奴を待った。
それから更に十分。
ガラガラと戸が開く音がする。
「やっとか」
阿求の視線の先には、その相手が目を顰めた表情で表れた。藍色の髪に藍色の衣服。全体がまさに藍色といったその少女は、阿求に気づくと隣の席に腰をかけた。
「遅い」
「ごめん」
間隔を開けずに話す彼女は、店主に取り敢えずジュースを頼み、阿求が残していた枝豆の摘まむ。
「さて。私は稗田阿求です」
「藍色」
「こっちの世界では」
「初めましてだね」
「そうですね」
阿求の台詞に被せてくるように喋る藍色だが、阿求は気にしてもいない。そもそも阿求は被って来ていると思っていない。
「藍色さん」
「ん?」
「理由」
「ああ。ちょっと色々あった。うん、色々。だから遅れたの」
「色々?」
「色々」
阿求の問いに藍色はそれ以上何も言いたくないのだろう、頼んでいたからジュースを一口に飲む。
「企画自体は?」
「知ってる。あの人からこっちに来るよう言われたから来た。クロスオーバーだっけ?」
「そんな感じですね。メタイ話、みずさんの書いた私。空椿さんが書いた貴女。なんてことはありません。話合うだけです」
「うん」
「取材は断っているみたいですね」
「そうだよ。やめて欲しい」
「まあ。それで食い下がったら記者じゃないですけどね」
阿求はまた一口お酒を飲もうとしたら、藍色に取り上げられる。
「何です?」
「お酒苦手なの。だからこれ以上は臭いから嫌だ」
「ああ。成程」
「……ん」
代わりと言わんばかりに、自分のジュースを渡してくる。仕方ないからそれを飲み干した。
「それでなんですけど」
「うん」
「ただ話合うってのもつまらなくないですか?」
「そんなことない。むしろ新鮮」
「あら……どうして?」
「こっちの阿求と違うから、新鮮」
「……そうですか」
お互いそれから少しの間無言になる。別に話すことがないわけではないのだが、この時間はなんとなく心地よかった。
「藍色さん」
「ん?」
「お便り書きませんか?」
「お便り?」
突然なんだと頭を傾げる藍色。阿求は得意気に話出す。
「私、こっちでラジオ番組やってるんです。もしよかったら、それにお便りを書いて欲しいんですよ」
「……面倒な気がする。何書けばいいか分からないし」
「なんでもいいですよ?」
「……面倒」
「……じゃあ賭けをしませんか?」
「賭け?」
「はい。それなら藍色さんの得意分野ですよね?」
藍色は少し困った顔をした。
「得意分野というか、私の能力が、確率だから」
確率を操る程度の能力を有する藍色。だからこの分野に置いて藍色は最強といってもいいだろう。断る理由もとくにない。
「うん。いいけど」
「じゃあ、私が勝ったらお便りを書いてもらう。藍色さんが勝ったら、特に何もしなくて構いません。やりたいこともあるでしょうし」
「わかった」
賭けは成立した。阿求は店主に頼み、サイコロを二つ取り出し、茶碗程度の笊を取り出してもらう。
「今からやるのは丁半という賭博です。笊の中に放られたサイコロの出目を、丁……偶数と、半……奇数のどちらかを宣言する簡単なゲームです。確率は半々。藍色さんなら、もっと確率を上げることが出来るでしょう」
実際に確率を上げることは出来る。もしそれをすれば、恐らく勝てるだろう。
「でもただ半々じゃ面白くないじゃないですか」
これも藍色は予測していた。藍色の能力を前に確率で戦うのだ、自分が有利になるようにルールを限定させるだろう。
だが、阿求はそうはしない。
「私はこのピンゾロの目が出たら勝ち、藍色さんはそれ以外が出たら勝ちです」
指の間に挟んだサイコロを藍色に表面を見せる。赤い星が一つ、四角い立方体に刻まれていた。勝ち誇った笑みを見せる阿求に対して、藍色は眉を寄せる。
「……何それ?」
それもそうだろう。このルールではほぼ百パーセントの確率で藍色が勝つ。もはや確率を操作するまでもない。
「いいですかね?」
「阿求がそれでいいなら」
「ありがとうございます」
阿求はサイコロを笊に放り入れ、カウンターに口元を押し付けて時計回しに一回しする。
「さて。どうなってると思いますか?」
「そんなの知らないよ」
藍色は確率も特に操作していない。後はこの事象を確認するだけだ。だが阿求は、もったいぶるように笊から手を離さない。
「阿求?」
「藍色さんって、極限に運が悪いんですってね」
「それが何?」
「その運の悪さって、ほぼ百パーセントが、ようやく半々になるって窺っています。それって……確率を操作しなくても起こるんですかね?」
悪い笑みだった。藍色の驚愕の顔を弄ぶような悪い笑みだ。
「……起こらないって言ったら?」
「そう言う時点で起こるって言っているようなものですよ? なるほどなるほど。つまり今この中では、ピンゾロの可能性があるってことですね」
「そうとは限らないよ。今から私が確立を操作して、手を加えることは出来る」
「そうしたら、試合に勝って勝負に負けたって感じですね。情けないですね~。結局後出しするしか勝つことが出来ないんですから。ああいいですよ? 別に操作して貰って。藍色さんのそのちっぽけなプライドがそれを許すならですけど」
そう言われて、今更確率を操作することは難しい。結局引いたことになるし、勝ったと正直言いにくい。いや、事実上勝つことはできるのだが、ようは気持ちの問題だ。心の底から勝ったと思うか、思えないかの、それくらいの溝が存在する。
つまりは、もう藍色はこれ以上この問題に確率を操作することを封じられた。
「……でも、結局は半々。どっちに転ぶかなんて分からない」
「そうですね。でも……私はこれでも運がいい方ですよ?」
最後には運だ。運がよければ勝てる。賭けとはそういうものなんだ。傍からみた状況では藍色が勝てるはずなのだが、阿求は一パーセント弱を引き当てる凄みがある。
「じゃあ……開けましょうか」
満を持して笊が持ち上がる。藍色はそむけたくなる目線を何とか逸らすことなく見る。表示された数字は。
一と……二。
「あちゃ~。負けちゃいましたか」
「……なんか、気持ち良く勝てなかった」
「でも、楽しかったですね」
「阿求だけね」
藍色はジュースに手を伸ばして飲もうとしたら、阿求に既に飲まれていたことを思い出した。なので素直に元の位置に戻す。
「でも残念ですね。藍色さんのお便り欲しかったんですけど」
「……たぶん大丈夫だと思うよ?」
「どうしてです?」
阿求は勝負に負けた。だから藍色は阿求のためにお便りを書くことはしなくてもいい。しかし藍色は。
「家の作者に言われたらさすがに書く。こんな賭けをしなくても、結果的に書くことのなる」
それを聞いて阿求はぽかーんと口を開けた。
「なんですかそれ? じゃあこれは?」
「取り越し苦労」
「先に言って下さいよ」
「聞かれなかったから」
さも当たり前のように言うので阿求はヒクヒクと頬を吊り上げる。藍色は少し気まずそうに阿求から視線をずらし、ジュースを頼んだ。
「……まあいいですよ。家の作者の方に、藍色さんにお便り書かせるために、あちら方の作者に頼んで下さいって言うから」
「それは卑怯」
「藍色さんの能力の方が卑怯だと思いますけどね」
「う……」
「……冗談ですよ。藍色さんの能力はとても魅力的です。それに今回の件で効力法もなんとなく分かりましたし、次はこっちが勝たせて貰いますよ?」
余裕ぶった笑みを見せる阿求に、藍色は微笑み。
「勝つのは私だよ」
そう言って、出されたジュースを飲み干す。
この度、空椿さんのご厚意でコラボ小説書かせて貰いました。
僕の特色が前面にでた作品になっているので、空椿さん経由で見た方は、誰だこの子? ってなったかもしれません。それに関しては申し訳ない。勉強不足です。
僕経由で普通に見られた人や、今日この作品を見た方。是非とも空椿さんの作品を見て頂きたい。もうダイレクトマーケティングです。オープンで押しますよ。
東方藍蓮花、絶賛公開中でーす!
僕の作品? 気が向いたら見て下さい。
最後に、空椿さん。今回のコラボ承認、ありがとうございました! 他者様の子をお借りするのがこれほど緊張するとは思っても見ませんでしが、いい経験をさせて貰いました。ありがとうございます!