表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Paradise Lost  作者: 火の玉
1/1

日常(1)

「ピピッピピッ」


ぼんやりとした意識の中で、起床の時間を知らせる携帯のアラームが鳴っている。龍太は布団に包りながら携帯を探した。


暫く辺りを捜索し、漸く携帯を見つけたころにはアラームが最大音量で鳴り響いてる。


「ハア……」


龍太は大きな溜息を吐いてアラームを消し、時間を確認する。今日は4月1日で時間は午前7時であることが携帯の画面から確認することができた。


「まだ7時か……」


テーブルに携帯を置き、さて二度寝でもしようと思った矢先、ドアをノック……いや、殴る音が部屋に響く。


「ちょっと!!まさか二度寝とかしようとしてない?」


妹の小夜(さや)だった。小さい頃はどこに行くにもくっついて行きたがる可愛い妹だったが、両親が他界してからは龍太の母親代わり、と言うより小姑となっている。


「早くごはん食べてくれない?いつまでも片付けられないんですけど!!だいたい、昨日何時まで起きてたの?そうやって不健康なことするから……」


龍太は小夜の小言を最後まで聞くことなく、夢の世界へと落ちようとしていた。が、またしてもドアを殴る……いや、今度は蹴る音に現実へと引き戻された。


「おい!龍!寝るな!!!!」


さすがに品のない起こし方に龍太も起きるしかなかった。





龍太がゆっくりと部屋のドアを開けると、鋭い眼光で睨みつける小夜が腕組みをして立っていた。龍太は瞬時に仁王像を連想し、思わずフッと笑った。その瞬間、小夜が龍太の視界から消え、龍太が小夜を捉えた頃には鳩尾に拳が突き刺さっていた。


「ぐふっ!!」声にならない声が漏れ、龍太の呼吸が止まる。


「今、何考えた?ねぇ早く答えてよ。あと5秒待ってあげるから。」


「(この暴力小姑は何言ってやがる)」龍太はそう思った。ちらりと小夜の顔を見ると、猛禽類の様な眼の奥からどす黒い殺意が溢れていることに気付き、龍太は恐怖した。





「…………もう5秒たったよ?お・に・い・ちゃ・ん」


小夜の問いかけに龍太は顔が引きつる。もはや言おうが言うまいがこの状況は改善する見込みがない。意を決し龍太は口を開く。


「っ……」


龍太が一言目を口に出そうとした瞬間、視界から小夜が消えた。






龍太は気が付くとキッチンの椅子に座っていた。目の前にはこんがりと焼けたトーストとサラダ、あとコーヒーが用意されていた。いつもと変わらない朝食のメニュー。しかし龍太には気になることがあった。それは小夜に起こされてからの記憶がなく、自分が如何にしてキッチンまでたどり着いたのか謎だったからだ。


「なあ小夜。俺って起こされてからどうやってここまで来たんだ?」


たぶんことの真相を知っているであろう小夜に聞いてみた。


「寝ぼけてらっしゃるんですか?自分で歩いて来たじゃありませんか。」


洗い物をしながら小さく振り向く小夜は、一見微笑んでいるように見えたが眼は全く笑っていなかった。理由は分からないが怒っているのは確かなようだ。


「そ、そっか……。」


妹の迫力に押され、これ以上聞けない兄。仕方なく無言のまま食事を始めるがどうも小夜が気になって食事どころではない。カチャカチャと小夜が食器を洗う音だけが聞こえる非常に気まずい空間が、このまま永遠に続くのではと怖くなった。


龍太が食事を終え、コーヒーに手を伸ばそうとした時、キュッと水を止める小さな音がした。どうやら小夜が洗い物を終えたようだ。




「ねえ、今日の予定なんだけど……」


突如として沈黙を切り裂いたのは小夜だった。声のトーンからして機嫌はだいぶ回復したようだが予断を許さない。


「……あぁ買い物のことか」

昨日買い物を手伝ってほしいと小夜から頼まれたのを思い出した。


「なに……もしかして忘れてた訳じゃないよね?」


「ま、まさか!!しっかり覚えてましたとも!!」

龍太は早速地雷を踏んだことに気付く。


「ふーん。まあいいけど。しっかり買い物手伝ってよね。高校生になると揃えるものも多いんだよ?」



小夜は明日から高校生になる。そのため学校で必要なものを買い揃えるのに荷物持ちとして龍太に白羽の矢がたったのだ。

こうして龍太の今日1日の予定は決定した。


「それじゃそろそろ出かかる準備するか?」

龍太は大きく伸びをしてから小夜に問いかけた。


「もうとっくに準備出来てるんですけど」



「……ごめんなさい」龍太は謝るとすぐに食器を洗いにかかった。

今日1日いろいろな所に連れて行かれ、挙句山の様な荷物を持たされると思うと憂鬱にはなったが、久しぶりの外出だったので少し気持ちが高揚していた。




明日から新学期が始まり、またあの居心地の悪い学校に行くことと比べれば、妹にこき使われ、奴隷の様に荷物を運んでいる方が龍太にとって数千倍ましだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ