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妄想パラドックス  作者: 大銅 爽
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妄想と現実そして・・・

初投稿です。つたない文ではありますがよろしくお願いします。

「もはやどうしようもありませんな」

大きな円卓を囲む数人の老人たちの中の一人が呟く。

「これまでよく持ちこたえた方でしょう」

別の老人も賛同するかのように呟く。

「我々に残されて道は魔王の軍門に下るほかありません。ご決断を、主よ」

また別の老人が言い、その言葉とともの老人たちの視線は円卓の中で一番豪華な椅子に座った。一人の少女に向く。

「・・・・・まだです。まだ終わってはいません」

 少女は数秒の間をおいて、静かに、しかしはっきりと否定の言葉を口にする。

「しかしどうするのですか?何か妙案でも?」

 老人の一人が少女に問う。

「英雄召喚を行います」

『!!!』

 少女の言葉に円卓にいる全員がざわめく。

「もうそれしかありません。責任はすべて私がとります。なので、すぐに勇者様を迎え入れる支度を!」



 頬をなでる風は熱いが纏う黒衣の魔装のおかげで苦になることはない。むしろ心地良いくらいだ。この暑さもひび割れた大地から吹き上げる無数の火柱のせいだ。どす黒い雲が空を埋め尽くすどすが火柱が辺りを明るく照らしていた。

「貴様の復讐劇もこれで終わりだ、黒衣の復讐者よ」

 俺の目の前にいたゴリラのような大男、魔剣士グラハムが言った。

「しかし、貴様の人生と言う復讐劇は本当に悲劇的だな」

 グラハムは気味の悪い笑みを浮かべながら言う。

「魔王様によって家族を殺され、冥界より呼び戻そうと行った術も失敗。術に失敗したせいでその身に呪いを宿してしまう。かろうじて呼び戻した妹も魂だけの霊体。本当に悲劇的、・・・・・、いや、ここまで来たらもう喜劇だな」

 グラハムは心底楽しげな調子で言った。

「それがどうしたか?」

 正直俺は逆に心底どうでもいいと思いながら聞いた。

「確かに俺の人生は悲劇的で喜劇的かもしれない。術も失敗した。妹も霊体でしか呼び戻せなかった。まあ失敗したからこそ、この左目を手に入れたんだが・・・」

 そう言いながら俺は右手で左目を瞼の上から撫でる。

「でも、俺の人生と言う復讐劇を今日ここで終わらせるつもりはない」

俺の言葉を聞き、グラハムは眉をピクリと震わす。

「ほお?面白い冗談だな、黒衣の復讐者よ。貴様に冗談のセンスがるとはな。てっきり俺と同じように戦うことしか能のない男かと思っていたぞ」

 グラハムは豪快に笑う。

「だが、お前の人生は今日ここでこの俺が幕を引いてやる。アンコールもカーテンコールもなく終わらせてやる」

 そう言ってグラハムは背中から自分の身の丈ほどもある大剣を抜く。

「なんと言うか。お前、鏡見てもの言えよ」

「それはどういう意味だ?」

「そういうセリフは顔がいいやつが言うもんだろ。お前みたいな脳筋ゴリラが言ってもあんまりカッコよくねぇだろ」

 俺は呆れながらグラハムに言ってやる。

「それにな、貴様とか黒衣の復讐者とかって呼ぶんじゃない。俺の名は榊原朱雀だ」

「名前などどうでもいい」

「どうでもよくはない。自分を倒す人間の名くらい覚えておくべきだろ?」

 そう言いながら俺は腰から愛刀『雪渡』を抜く。

「お前が俺の人生の幕を引くんじゃない。俺がお前の人生の幕を引くんだ」

 雪渡をグラハムの顔に向けながら俺は言った。

「なかなか勇ましいものじゃないか、黒衣の復讐者よ。もしも万が一にも貴様が俺が負けることがあれば、貴様の名前、冥途の土産としてあの世までもっていってやろう。万が一にもあればだがな」

 グラハムは大剣を構える。

「魔剣士グラハム、参る」

 グラハムは言うと俺に向かって走り出す。

 俺はグラハムを迎え討つべく雪渡を構え直し、


「お兄ちゃん!!さっきから朝ご飯だって呼んでるんだから速く下りてきてよ!!」

 妹の歩の声で田中優人は妄想の世界から強制的に戻された。

「なんだ我が妹、歩ではないか。何か用か?」

「『何か用か?』じゃないよ!!ご飯だってば!!何度も呼んでるのに。もうすぐ学校行く時間だよ?いったい何してたの?」

「魔剣士グラハムとの決闘を思い出していたのだ。俺はあの戦いを思い出すたび血の高揚を感じる」

 優人は懐かしそうに言った。

「なにそれ?そんなの知らないよ」

「そうか。そう言えば両親も含めお前を完全に蘇生させたときお前は戦いの記憶がなくなっていたのだったな」

 優人は寂しそうに言った。

「蘇生も何も私死んでたことなんてなかったんだけど?そんなことより、速く下りてきてよ。ご飯覚めちゃう。私先に行くからね」

 歩は呆れながら優人の部屋を後にする。



 田中優人は自分を「榊原朱雀」と言う名の戦士と妄想し、そう振る舞っていた。俗に言う「中二病」である。

 もともとは自分の好きな小説やアニメに自分と言う存在を登場させる程度の妄想だった。そこから徐々に妄想が進み、いつしか自分を異世界の戦士と思うようになっていた。

「自分は最強の剣技と魔法を使う黒衣の復讐者。

 両親、妹は世界を統べる魔王に殺された。

 魔法によって蘇生しようとしたが失敗。

 不完全に幽体で復活した妹と、右目に宿った魔眼。

 完全に家族を蘇生させるために魔王を倒すために復習に燃えるダークヒーロー。」

 そんな自分に酔っている痛々しい少年。それが榊原朱雀こと田中優人である。



 朝の喧騒のなか一人優人は自分の席に座り、すべて英語で書かれた小難しい本を読んでいる。周りのほかの同級生たちは優人に話しかけようとする者は誰もいない。

 優人の存在は正直言ってクラスの中でも学校の中でも浮いていた。学校でも痛い発言をする優人。人を見下すような口調。いかにも話しかけるなとでも言いたげな雰囲気で本を読む姿。それらのことがクラスメイト達を優人から遠ざけさせる。

「ちょっと田中くん」

 たった一人を除いて。

 優人の正面には肩までの長さで切りそろえられた黒髪の赤い眼鏡をかけた少女が立っていた。

「こないだの英語の課題プリントまだ田中君だけ出してないんだけど?速く出してくれない?」

 優人の所属するクラス。2年1組の学級委員長、横井美鈴がプリントの束を片手に優人に言う。

「む?」

 優人が読んでいた本から顔を上げる。

「だから、英語のプリント。速く出してよ!」

「大きな声出さなくてもわかっている」

 言いながら優人は机の中を探る。

「そう言えば田中君、今回は提出に時間かかってたね。今回の課題難しかったもんね?さすがの天才田中君もお手上げ?」

 美鈴は少し楽しげに、からかうように言う。

「ほら」

 優人は課題のプリントを差し出す。

「遅れてすまなかったな。少し気になることがあったものでついな」

「気になること?」

 美鈴が首を傾げ、優人から受け取ったか課題プリントを見る。

「・・・ん!!?」

 そして驚愕した。

 プリントには問題文のところに赤ペンで添削がされていた。

「・・・これって?」

「ん?ああ、それが気になったことだ。その問題、出し方が悪い。それでは解けるものも解けない。だから直しておいた」

「・・・・・・( ゜Д゜)」

 美鈴は開いた口が塞がらないと言った顔をしていた。

「どうした?そんなアホ面して」

「添削したの?先生が出した課題を?」

「ああ。添削したが?」

「・・・なんで?」

「??? 間違っている個所を直して何が悪いんだ?間違いがあったらダメだろ?教師の出す課題なんだから」

 さっきまで読んでいた本をまた開きながら優人は答える。

「す、すごいね先生の問題の間違いに気付くのもだけどそれを添削するのとか」

「別にすごくはないだろ?教師だろうと生徒だろうと大人だろうと子供だろうと間違いは間違いだ。間違いは正さなければならない」

 優人は淡々と答える。

「へ~。さすがだね」

 美鈴は心底感心した顔で言った。

「ね、ねぇ田中君。話は変わるんだけど。今度私と・・・」

「用事はすんだだろ?速くそれ提出してきたらどうだ?」

 美鈴が何かを言いかけるが優人はそれを遮り、言う。

「あ、うん。そうする」

 優人の勢いに勝てず、美鈴はプリントの束を揃え直し、優人の前からすごすごと立ち去って行った。


 ―――まったく、これだからこの世界は。レベルが低すぎて退屈すぎる。やはり俺のいるべき世界はここじゃない。もっと刺激的な場所だ。魔王との戦いがあったあの世界のような場所こそ俺の望む世界。俺のいるべき場所だ。


 ガチャリ

 帰宅した優人は自室のドアを開け、自室に入る。制服の上着を脱ぎ、ベットの上に投げる。

「ふう」

 一つ息を吐き出し、自分の椅子に座り、目の前に置かれたノートパソコンを起動する。

「まったくもってこの世界は退屈だ。こういう時は他の戦士たちの闘いの記録でも見るに限る」

 そう言って優人はパソコンにDVDを入れようとするがメールボクッスのアイコンが点滅していることに気が付く。

「誰からだ?」

 優人はその受信されたメールを開く。


〈勇者様へ

 これを読んでいるあなたは選ばれた勇者様です。どうか私たちの国ををお助けください。あなた様の力が必要なのです〉


 メールの内容を読み終わった優人は首を傾げる。

(新手のオンラインゲームの広告か?少し面白そうかもしれんな。とりあえずやってみるか)

 優人はその下に表示された何かの紋章のようなものをクリックする。

 キ―――――ン!!!

 その途端耳鳴りのような音が響き渡る。

「な、なんだ!?」

 優人が驚愕しているとさらなる変化が起こる。

「パソコンの画面が!!」

 優人の視線の先にあるパソコンの画面が真っ白に染まり、徐々に画面の光が強くなっていく。

「う、うわ~~~~~~~!!!」

 優人は光のせいで目が開けられなくなっていった。それと同時に徐々に徐々に意識が遠のいていく。

「いったいどうなってるんだ!!?」

 そう叫んだ直後。そこで優人の意識は完全に真っ暗になった。

感想等あればぜひお願いします。

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