夏祭り
それから数年経ち、那津は十五の歳を迎えた。二つ下の瑠璃は、元服姿の那津を見て、
「とても逞しく見えます。なんだか、急に大人になったように」
と、手を叩いて祝福した。那津は頬を染め、照れ笑いを浮かべた。那津は、瑠璃に褒められることが一番に照れ、そして一番に嬉しくてたまらないのだった。
一方瑠璃の方も、日が経つほどに女性らしさも備わり、その気品溢れた姿は鮮やかな柄を散りばめた派手な着物にも負けないほどに、美しく成長をしていた。
そして変化は心の中にも表れ、子供の頃に感じていたお互いへの気持ちは、大人に向かうにつれ、艶のあるものに変わっていくのを、那津と瑠璃はそこはかとなく感じていた。
「瑠璃。今度は、どこへ遊びに行きましょうか?もうすぐ町では、夏祭りが行われるようですよ」
那津は、七日後に開かれる夏祭りを待ち遠しく思い、すでに二人で出掛ける様子を思い浮かべて、頬を緩ませていた。
当然、瑠璃も同じように嬉しく思うのであろうと思い、彼女の顔を見ると、瑠璃の瞳が遠くを見つめているように感じた。
「どうしたのですか?」
「えっ?……いえ、なんでもありません。夏祭りですか、それは楽しみです。毎年の恒例ですものね」
那津の声に瑠璃はすぐに我に返り、いつも通りの笑顔で頷いた。那津は、さっきの違和感は気のせいだと思い、改めて瑠璃の笑顔に酔いしれた。瑠璃の笑顔は、那津にとっては心の拠り所であった。
彼女が許嫁で良かったと、その笑顔を見るたびにそう思うのだ。例え生まれた家を出ることになろうとも、将来、隣に寄り添ってくれるのが瑠璃であるのなら決して寂しくはなく、那津は嬉しくて仕方なかった。
夏祭りの日、二人は意気揚揚と出かけて行った。
とはいえ二人は、町民と同じように自由にぶらつけるのは、この先何度も無いことを知っていた。やがて親の後を継ぐ事になれば、二人は今のように遊んではいられなくなる。今だけのこの自由な時間を、存分に楽しもうと、二人はしっかりと思いを噛みしめるのだった。
「那津様、今日は何を食べますか?」
「そうだな、瑠璃は何を食べたい?」
「私は……この間家の者に聞いた話では、【細工飴】というものがあるらしいのです。それを是非見てみたい」
「ほう。それは私も見てみたいな!」
那津は、瑠璃の細い手を取り、薄暗くなりつつある町への道を急いだ。
祭りの彩りを加えられた町は活気に溢れ、二人の事もすんなりと受け入れた。大名の娘、息子とはいえ、祭りの中に入ってしまえば、身分の違いなど関係は無い。出店の町民からは次々に声を掛けられ、あちこちで串物や菓子を買っては頬を膨らませ、やがて太鼓の音が合図となり、広場に人々は集まって盆踊りが始まるのだった。
自然と手を繋ぎ、町民に紛れ迷子にならないように引っ張りながら、那津は瑠璃と共に同じ時間を過ごせる事に幸せを感じていた。瑠璃もまた幸せそうな笑顔で、早足で那津についてくるのだった。