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桜の花びらが落ちる頃に  作者: 天猫紅楼
12/28

和解

 話し終わる頃には、高かった陽も落ちかかり、辺りは橙色に染まり始めていた。今まで抱えていたモヤはすっかり消え、那津は清々しい気持ちになっていた。蓮もまた、やっと本当のことを話すことが出来たことで、蒼白だった頬に赤みがさし、笑みが浮かんでいた。

「そうか、では、瑠璃も俺たちが今までどんな所に行き、何を話したかも、知っているというのだな?」

「はい。ですが……」

「ん?なんだ?」

 蓮は少し俯いて頬を染めた。

「……あの池のことは、話していません……」

「あの池…………あぁ……」

 那津は、『あの池』とは瑠璃を名乗っていた蓮に求愛した場所の事だと、すぐに分かった。視線を泳がせながら所在無さげにする蓮を見つめているうち、那津は少しからかいたくなった。

「何故、話していないのだ?俺たちの事はすべて報告しなくてはならなかったのだろう?」

「それは……」

 蓮はなおも頬を染めて俯き、やがて意を決したように那津を上目遣いで見上げると

「それだけは、私と那津だけの秘密に、したかったのです。でも、那津が話せと言うなら、それも……」

と、はずかしそうに小さな声で言った。

「蓮、お前……」

 那津は腰を浮かせると、蓮を思い切り抱き締めた。

「なっ……つ、苦しい!」

 蓮が苦しそうに那津の腕を叩くと、彼は体を離し、蓮を見つめた。その顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

「蓮、可愛いな!」

「なっ……那津!」

 耳まで赤くして俯こうとする蓮の顎を指先で支え、那津は唇を重ねた。

「那津っ?」

 動揺が止まらない蓮を再び抱き締め、那津は蓮の頭を撫でた。

「嬉しいんだ。そう思ってくれた事が。あの場所は、蓮以外には知られたくない場所だから」

「那津……」

 蓮の鼻先に自分の鼻を付け、

「あの場所は、俺とお前だけの場所だ。誰にも内緒。俺とお前だけの、秘密の場所だぞ。瑠璃にも絶対言ってはならない。いいね?」

と囁いた。蓮はホッとしたように頬を緩ませ、また頬を染めた。


 二人の和解は成立した。

 けれど、関係が縮まったわけではない。

 那津が結婚をするのは、蓮ではなく瑠璃であることに変わりはない。

 それでも那津と蓮は、一層心の距離を縮めていた。離れていても、繋がっていられる確信が、根拠もなく強く感じられて仕方なかった。

 幸い、二人は同じ屋根の下に住むことになる。会おうと思えば、いつでも会えるのだ。那津の心に、不安などは少しも残らなかった。

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