和解
話し終わる頃には、高かった陽も落ちかかり、辺りは橙色に染まり始めていた。今まで抱えていたモヤはすっかり消え、那津は清々しい気持ちになっていた。蓮もまた、やっと本当のことを話すことが出来たことで、蒼白だった頬に赤みがさし、笑みが浮かんでいた。
「そうか、では、瑠璃も俺たちが今までどんな所に行き、何を話したかも、知っているというのだな?」
「はい。ですが……」
「ん?なんだ?」
蓮は少し俯いて頬を染めた。
「……あの池のことは、話していません……」
「あの池…………あぁ……」
那津は、『あの池』とは瑠璃を名乗っていた蓮に求愛した場所の事だと、すぐに分かった。視線を泳がせながら所在無さげにする蓮を見つめているうち、那津は少しからかいたくなった。
「何故、話していないのだ?俺たちの事はすべて報告しなくてはならなかったのだろう?」
「それは……」
蓮はなおも頬を染めて俯き、やがて意を決したように那津を上目遣いで見上げると
「それだけは、私と那津だけの秘密に、したかったのです。でも、那津が話せと言うなら、それも……」
と、はずかしそうに小さな声で言った。
「蓮、お前……」
那津は腰を浮かせると、蓮を思い切り抱き締めた。
「なっ……つ、苦しい!」
蓮が苦しそうに那津の腕を叩くと、彼は体を離し、蓮を見つめた。その顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
「蓮、可愛いな!」
「なっ……那津!」
耳まで赤くして俯こうとする蓮の顎を指先で支え、那津は唇を重ねた。
「那津っ?」
動揺が止まらない蓮を再び抱き締め、那津は蓮の頭を撫でた。
「嬉しいんだ。そう思ってくれた事が。あの場所は、蓮以外には知られたくない場所だから」
「那津……」
蓮の鼻先に自分の鼻を付け、
「あの場所は、俺とお前だけの場所だ。誰にも内緒。俺とお前だけの、秘密の場所だぞ。瑠璃にも絶対言ってはならない。いいね?」
と囁いた。蓮はホッとしたように頬を緩ませ、また頬を染めた。
二人の和解は成立した。
けれど、関係が縮まったわけではない。
那津が結婚をするのは、蓮ではなく瑠璃であることに変わりはない。
それでも那津と蓮は、一層心の距離を縮めていた。離れていても、繋がっていられる確信が、根拠もなく強く感じられて仕方なかった。
幸い、二人は同じ屋根の下に住むことになる。会おうと思えば、いつでも会えるのだ。那津の心に、不安などは少しも残らなかった。




