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第3章 魔法の真理

無事『MWM』を追い払い一息ついた『CPS』。しかしそこに大きな障害が立ちはだかる。もう一度、魔法を考える話。

 第3章 魔法の真理



「……なんか変な夢を見た気がする。なんだっけ……」

 夢というのは夜中寝ている間に実は何回か見るものなのだ。しかし朝起きたとき、覚えているのは一つか、せいぜい二つ。

 それは、人間は夢を見たがらないから、無意識的にそうなっているのだ――

「……たぶん違うけど」

 横になっていた体を起こす。そこは山の中。森の中、木の根元に寝そべっていた。敷いていたタオルを回収し。

 隠密防御結界を解く。

 彼女は『CPS』と呼ばれている――魔法使いだ。

 科学では考えられないようなことを、思考するだけで果たしてしまうという恐ろしい力を使う。魔法使い。魔法使い同士が戦えば、地球なんて粉々になる――。

 しかし現実問題、魔法使いが人間の体を持っていて、酸素を吸う、地球の生物である以上、環境である地球を壊すことは出来ない――理性的に。理性的に魔法を使う集団――それが、魔法秘密結社『魔法行』。

 この彼女、『CPS』もその魔法結社『魔法行』に所属していた。

「朝ごはん……カロリーメイトなんて、どこの戦時兵よ。そろそろ仕事したほうがいいかしら――」

 『魔法行』。

 それは魔法使いを保護するだけでなく、魔法使いを処罰するためにもある機関。そして何よりも重要な役割が、一般人と関わらせないことだ。一般人に魔法を見せてしまったら、戦争になるかもしれないし、マッドサイエンティストには格好の的だ。

 それ以上に――『魔法行』は唯一で無二の魔法機関として、二つ目の魔法機関を作りたくない、戦いを起こしたくないのだ。

「……よし。そろそろ出発しよう」

 『魔法行』というのはまあ端的に言えば魔法使いを閉じ込める機関という事になるのだが、しかしその中といえばなかなか良いものだ。魔法の結界で現実世界とは遮断されているが、現実世界の娯楽も楽しむことが出来て、もちろん『魔法行』にも娯楽はたくさんある。不況なんて存在しない、住むにはこれ以上ないくらい安定しているところ。逃げ出そうと思う人間なんていない――はずなのだ。

「ちょっとでも逃げとかないとね」

 彼女、『CPS』は魔法使いである。

 現在、『魔法行』から脱走している。




「……流石に早くないですか?」

 さあ森の中から脱出しよう(自分から入ったが)と思い後ろを振り返ったとき、『彼』はいた。

 登山用の服装だが、赤をベースにした服装のようだ。靴も赤い。

 この場合赤いというのはデザイン的な意味であり。

 そこにいる『彼』から赤いようなオーラが出ているわけではない。

「…………」

『CPS』と向き合って、一言も口を開かない『彼』。

 言っておくが、これは『CPS』の魔法ではない。彼女は『賢者』になれるほどの魔力を持つが、彼女は引き際を心得ている。何もしてこない相手には防御はすれど攻撃はしない。

「…………」

 この沈黙は『CPS』のものだ。

 彼女『CPS』はそこでじっと自分を見ている彼の横を通り抜けて、下山しようとした。

「待って」

 と、『彼』は言った。

 『CPS』は立ち止まった。

 厳密に言えば、『CPS』は――倒された。

 単純な足払い。

 『CPS』は見事に、夏の森の冷たい地面に叩きつけられることとなった。無様に、受身も取れなく腹を土の上に擦り付けることになってしまった。服は土まみれ。

 普通の人間であれば、ここで驚くのはその衝撃、ダメージかもしれない。何も喋らなかった彼が突然攻撃してきたことかもしれない。

 しかし、『CPS』は違う部分で驚いた。

「え……?」

 それは、彼女の理念。防御はする。攻撃は向こうが攻撃したときから。

 防御は――していたはずなのに……!

「僕は――」

 何も言わなかった少年――『彼』は言った。

「『ELSE』。魔法封じさ」




魔法は魔力と回路によって生成される。

回路のほうは、その個々人の想像力――無意識的な、魔法についての想像力が必要なのだ。

 では、魔法封じとはなんだろうか。つまり、その回路を遮断する能力のことではないだろうか。そう、第二章で『CPS』が行ったような、無意識支配。そういうものであることが考察の一つ目として考えられる。


 しかしこの場合、その考察は間違っている。

 『CPS』は自分の無意識を自らの魔法で支配して、防御していたのだから。支配されないように、防御していたのだから。




その言葉を聞いたとき、『CPS』は夢を見ているのかと思い――単純な電撃放射魔法『ND』を『ELSE』と名乗った少年に発射する。その電撃は人の浴びていい電力、0.5アンペアを軽く超えていて――。

人を殺すための、魔法だった。

にもかかわらず。

『ELSE』という少年は――その電撃を、まるで『吸収』したかのような――

 まったく効かなかった。少年は電撃に驚いたようだが、しかし死んでいない。電撃を避けたわけでも、分散させたわけでも――ない。吸収と表現するべきその現象。

 『CPS』は。

「く……来るなあああああああああああああああああああああああああこっちに来るなあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 叫んだ。

 立てないまま、『CPS』は叫ぶ。腰を抜かしたまま、後ろに逃げる――それは逃げるといえないほどの遅さだったが。

 『CPS』にとっては、必死だった。

 『ELSE』という少年が、彼女、『CPS』に、一歩、近づく。

 そのとき、『ELSE』の足元で爆発が起きる。『CPS』の魔法だ――しかし、『CPS』本人はといえば、怯えきったままで……。

 血の気のない青い顔をして。

「来るなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 逃げた彼女は、もう一度逃げた。




「……っはぁ、っはぁ。はぁ、はぁ……」

 山を駆け下りて、ちょっとした小川の橋の影に隠れた『CPS』。本気で逃げてきたため息切れが激しい。目を手で覆い、今までのことについて思い返していた。

 まず、山でちょっとした縄張り的なものを作って、そこで一晩明かした。そして目覚めたとき、そこには少年がいて、通り過ぎようとしたら足払いをかまされて、魔法で反撃をしようとしたら――効かなかった。

 効かなかった。

 魔法使いの天敵だ――おそらく『吸収』をする体質なんだろう。

 『吸収』の方法自体は単純だ。エネルギーをそのまま魔力としてある場所に――魔法使いの杖とか――溜め込むという方法だ。

 しかしこの方法はある意味非効率的で、魔法の吸収をするのは『賢者』でも難しいこととされている。いや、それを必要としないのだ。『CPS』も必要としなかった。なぜなら、基本的な防御魔法『S1』は物理エネルギーを相殺するという、基本的だがとても有用な、有効な魔法だ。『CPS』が皮膚細胞一つ一つに組み込むほどのすばらしい魔法だ。それを使うことと、魔力を吸収させるものを作ること。コストも効果も、前者が圧倒的に良い。

 そう――ここでい言いたいのは、『吸収』なんかするのはかなりひねくれた魔法使いだということ。『吸収』なんかする魔法使いははっきり言って強くない。ということだ。

 そう、よほどのことがない限り――『ELSE』のような特例にならない限り、『吸収』なんか使わないわけで――

 そして、それは魔法使いの天敵だ。

 そして、魔法はチート的なものが多く、魔法使い同士で戦ったら、ほとんどは引き分けで終わる――相打ちではなく、引き分け。双方が防御体勢を取り、勝敗がつかないのだ。『3N』や『MWM』との戦闘のときのように、『相手が気づいていないこと』が武器になり、それは戦闘の中では身につかない――よくある主人公のような爆発的な成長は魔法使いには期待できない。

「ってか……なにあれ……? まるで理解不能……意味不明」

 魔法が通じない――一般人からすればそれはただの『特殊能力』だと捉えられることがあるだろうが――魔法というものを考えたとき、少し話は違ってくる。

 魔法とは、『魔力を物理エネルギーに変える方法』だ。つまり、『魔法が効かない』ということは『物理エネルギーが効かない』と言い換えることが出来る。現実的に言えば、殴っても、効かない――そう言う風に捉えることも出来る。

 それならば、歩くことは出来ないはずなのだが……。

「まぁ……都合のいいように出来てるって考えたほうがよさそうねぇ」

 余裕ぶった言い方をしているが、それはただ『CPS』がそう言う話し方しか出来ないということであり、こちらが優勢だということではない。

 『CPS』はもともと、優等生として育った。クラストップ、学校でトップ。学習能力、応用能力、すべてにおいてナンバーワンだった。ただ、友達を作らない、仲間を作らないという奇妙な決意のため、性格はといえば歪んでいた――おかしな歪み方だが。

 否、その歪みのおかげで、彼女『CPS』が優等生でいられて、脱走してから今まで生き残れたということなのかもしれない。

 今までは。

「魔法を吸収する相手に……魔法で負けるわけには行かない……でもどうやって? どうやって勝てばいいの……?」

 今回――『ELSE』という少年との戦いは、一体どうなるのか。

 勝つ見込みは――ほとんどない。




今も使われている超高層ビル。都会の真ん中に建てられた、ビルと呼ぶにふさわしいビル。その最上階に、ある一人の少女がいた。

 彼女は『CPS』という魔法使いだ。

「はっ……ふぅ。流石にこの高さの高層ビル。エレベーターで最上階に行くのにも時間かかるねぇ」

 その間にこれまで走ってきたときの体力を回復した。魔法ですることも出来なくもないが――

 精神的ダメージを回復するほうが先だった。

「さて、と……」

 最上階は展望台的な感じになっており、360度ガラス張り。中央には屋上に通じる階段。その内側に円を描くようにテーブルと椅子のセットが何組かある。そのひとつに『CPS』は腰かけ――階下から拝借してきた、きっと何らかの会社の書類だろう――白い裏紙をテーブルに置く。

「もう一度、魔法についてしっかり考察するわ……!」

 彼女は懐からペン――何の変哲もない、魔法がかかっていない――を取り出し、その裏紙に何かを書いている。

 真っ白い裏紙が、なにやら意味ありげな記号や文字を浮かべている。魔法ではない。『CPS』自身がペンを走らせ、書いているのだ。ここで魔法を使うと――

 いざ『ELSE』と対峙したとき、書いたことがすべて消えてしまうからだ。今彼女がやっている考察。そのくらい重要なことなのだ。

 彼女の本職。

 魔法の根源、魔法の起源についてだ。




「……? どこに行った」

 『ELSE』は都会の中を歩いていた。赤い登山服から今風のファッションに着替えて――まあそれも赤を基調にしているのだけれど。

 『CPS』の考察どおり、『ELSE』の『特性』は『吸収』だ。しかしそれは『物理エネルギーの吸収』ではなく、『魔力から派生したエネルギーの吸収』である。とても奇妙な『特性』だが、しかし人間が日常的に生活するにはなんら問題なく――

 『ELSE』本人には魔法に関する記憶が無い。

 普通の人間のように普通に生活することが出来る。ただ、精神を操られているから、『魔法行秘密研究科』の支配を受けている――もっともそれは物理的なもので、魔法的なものではない。魔法で支配しようとすれば、彼の『特性』で無効化されてしまうからだ。

 しかし、一般人にはそれすら分からない。

「はやくあいつを見つけ出してぶっ飛ばさないと……」

 そしてなぜだろうね。『ELSE』本人の意思とは関係なく本人の意思で『CPS』をつぶそうとしているのだ。これを被害者と呼ばずして何と呼ぶ。

 いや、これは本人の意思でもあるのだ……いずれにしても日本の法律では間に合わないだろう。

「ふふふ……待ってろよ。待ってろよ……!」

 悲しいかな。それは狂気だった。




『ELSE』と呼ばれた少年について話そう。

 彼は一種の実験体だ。

 魔法の可能性を探る実験。魔法使いがどうやって生まれるのか、という実験だ。そのパターンが分かれば、魔法についての解明がより鮮明になるということだ。

 そんなマッドマジカリストが作り出した『失敗作』としての『武器』。それが『ELSE』という少年だ。

彼は――もとはただの一般人だった。

この場合一般人というのは『魔法を使えるだけで特に何も突出したことはない』という意味での『一般人』ではない。

魔法を知らない使えない。この現代社会で生きていた、ただの人間だった。

しかし、いわゆる『拉致』。一般人の少年は『魔法行秘密研究科』で魔法の実験体となったのだ。『秘密』とは、この場合『魔法行』の内部の人間に『秘密』な『研究』をするということだ。

ゆえに、『CPS』という名誉ある実績ある研究者であろうと、『ELSE』の存在を知らない。


彼にエピソードはない。

彼は『拉致される』『『CPS』と会う』。記憶はそれだけなのだ。無論、散々実験されたから記憶は存在したのだろうが、魔法ですべて消されているというわけだ。




「できた!」

 その少女は小走りに教室内を駆け、先生の下へそのプリントを渡しに行った。教室内のほかの子供たちは席に座って、まだそのプリントに文字を書き連ねている。

「あら、ずいぶん早いわねー」

 先生だと思われる人間はその少女が持っていたプリントを受け取って、赤いペンで丸をつける――ペケのマークはない。

「はい、よく出来てるわ! すばらしいわよ!」

 先生だという人間はそう言ってそのプリントを――100点と赤字で書かれたプリントを――渡した。渡されたその少女は満面の笑み。らんらんと鼻歌を歌いながら、少女は自らの席に着く。

「ふふーん!」


 『CPS』という少女についてのエピソード。

 彼女はただの魔法使いだ。今までここまで読んできた読者の皆には『ただの』という言葉に疑問を抱くかもしれない。

 しかし彼女は『ELSE』のような実験体でも、『3N』のような狂戦士でも、『MWM』のようなマッドマジカリストでもない。彼女はただの魔法使いだった。ただ、誰よりも魔法を扱うのがうまかっただけで、頭がさえていて、少しばかり性格が悪かっただけだ。

 それ以外に特に突出したところは――ない。

 しかしあえて、彼女のことを語るならば、あるエピソードを話さなければならないだろう――


「少し、黙ってろよ」

「へ……?」

 いつだろうか。どこだろうか。その少女はある少年にそう言われた。その一言は少女の人格を変えるには十分だった。そして、そのエピソードは――ここで話すべき物語ではない。


「よく出来たわね!」「さすが!」「すごいなぁ!」

 そう、少女はほめられていた。何をやるにしても、他人と比べたときには褒められていた。

「……どうも。ありがとうございます」

 冷たい反応。それが『CPS』の思春期時代だった。幼少時代のようなかわいさや溌溂した感じはそこになかった。無口な、天才。それが『CPS』――『シアン・サイコロ・シンメトリー』の個性だった。

(……別に、他人と仲良くするのは社交辞令以外はいらない。そして私も社交辞令以外の仲良しはいらない)

(求めない。受け取らない。それがこの私)

(逃げることは悪いことではない。心が屈さなければよい)

(せめて、誰かが失敗したときはちゃんと説明してやらないとね――)

 これで満足する人間――だった。




「ひどい人生送ってきたな……」

 意味不明な書類の裏に、意味不明な文字を書きながら、彼女はつぶやいた。しかしその言葉を聞くものはここにはいない。この場所はもともとほとんど人が来ない場所なのだ。

 ひどい人生。

 たしかにそれはひどいとしか言えないだろう。失敗することは少なかったけれど――人間関係がなかった。

 家族とは本当に必要最小限の関係だったし、友達とも呼べる人間もいなかった。本当に、機械のような人間だった。そう比喩できる人間だった。

 しかしここで重要なのはそこではない。

 その程度の人間関係で満足する、その心が問題だった。

「…………」

 ただ、魔法に対しての思い――執着心だけは、他人よりも勝っていた。おかげか、周りの誰よりも魔法を強く、上手く使うことが出来た。

 自らの力で自らの力を磨き上げる。それこそ彼女の代名詞。一人で切磋琢磨。これが彼女の座右の銘。

「でも……」

 やはり一人なのは寂しい。そう思う。魔法を限界まで磨き上げた彼女が次に求めたのは――友達だった。

「ふっ。おかしな話ね……」

 普通は逆だ。

 人間関係を良くする為に、魔法をほしがる。それが一般的な人間の一般的な考え方だ。


「魔法は、その人間の本質を顕す」


 彼女の名前は『CPS』という。彼女は今さっき、魔法に関する考察を『終えた』。

 魔法がどういう原理で、どういう理屈で動いているか。それらすべてを――『知り終えた』。

 おそらく彼女は、最強となった。


 最強とは、天敵と相対し、勝つ者のことである。



                   第3章・終

                   第4章へ続く

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