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海   作者: swan
2/4

むかしの話


 七年前。  


「暑い。何なのよ、これ」


 寝苦しい夜が続く熱帯夜に、私は一人街灯も無いような海沿いを歩いていた。八月のはじめ、夏休みも半分近くだ。

 みんな、すごく楽しいんだろうな。

 それなのに私ときたらこれだもんなぁ~。

 もう、私の人生終わったな。えっとどうすれば、いいんだろ?


「・・・頭の中でもはっきりいえないんじゃねぇ」


 くすくすと海美は笑った。端からみたらどう見られるとか、どうでもよくなっていた。

 真夜中に人一人いない道を歩いている。

 …多分よく見えないのだが。


「あ!」


 海美は何かにぶつかった。


「えぇ?!」


 思いっきりぐにゃりと何かを蹴飛ばすと共に前のめりに倒れた。しかし、思ったほど痛くない。思わず両手で顔など触ってみる。


「おい。」


「え?」


 自分の下から声がする。不機嫌な、低い声だ。


「どけよ」


 慌てて身体を起こした。

 声の主が手を貸してくれる。目を凝らそうとするが無理だった。暗い。


「だ、れ?」


 恐るおそるとたずねる。


「その前に俺に言う事あるだろ」


「・・・ごめんなさい、たすけてくれてありがと」


「どういたしまして」


 どうやら彼の上に乗ってしまったらしい。私は、手探りで防波用のコンクリートで出来た壁に手を当てて立ち上がる。


「あんた、何でこんな所を歩いてんだ? 真夜中だ…ぞ」


 訝しげに訊ねていた彼の声が変わる。はっきり見えないが彼の目は私を捉えているはず…。


「私、そんなに変?」


 私は、自分の目元に手をやる。


「見えないのか?」


 かすれた声で彼は聞く。


「・・・暗い中じゃあんまり」


 長い沈黙が訪れて、ふと彼が声を出す。


「どこかに行く途中か?」


「ううん。ただ、逃げてきただけ」


「そうか。ここ浜へ降りる階段があるんだ。下へ降りないか?」


 彼はどこから? とも、何から? とも聞かずに言った。

 それが心地よかった。私は何もすることが無かったし、彼に興味があったので頷く。


「そこで腰下ろして大丈夫だ」


 しばらく歩いた所でそう言われ恐るおそる腰を下ろした。

 私がちゃんと座った事を確認して彼が繋いだ手を離した。

 そこで初めて彼にずっと手を握っていてもらった事に気付く。今まで男の子と手を繋いだ事なんて無かったのに。


「ありがと」


「どういたしまして」


 何でこんなに知らない人なのに落ち着くんだろう。


「俺さ、いつもこの海眺めてるんだ」


「キレイだよね」


 私は最後に見た記憶の中の夕焼けの海を思い出す。


「綺麗だよ。いつだってこの海から勇気もらえる。俺の憧れだよ」


「そうなんだ」



 しばらく沈黙が訪れて波の音が押し寄せてくる。

 繰り返される波の音に酔ってしまいそうだ。


「あのっ…え、あれ?」


 隣に居たはずの少年を確かめるように組んでいた腕を伸ばした。しかし、居るはずの少年がいない。


「うそ、何で…」


 急に不安が訪れて何度も砂を叩く。

 知らない人に付いて来るんじゃなかった。

 このままここに居たら満潮とかきて沈むのかもしれないのに。



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