後日談
後日、道真はクロに説教されていた。道真は道真なりに反省しているのか、心なしか小さく見える。
「――お前はよぉ、時計台に穴を開けるわ、車を突き刺すわ、一体何考えてんだ? その上知らねぇ奴等連れてくるしよぉ。もう……うにゃーー!!」
両手を上げて怒りを表現している。そしてすぐに座布団の上に丸まり、
「だが、まぁ良くやったさ。誰も大怪我しないし死ななかったし。俺が色んなとこに頭下げりゃあ何とかなるしよぉ。これからも頑張れな?」
説教が終わり、欠伸をして寝ようとしているクロに道真が一つ尋ねる。
「それでクロさん、あの二人はどうしてるんだ? 『俺に任せとけよぉ』って言ってから一切説明されてないんだが」
クロがふぁ、ともう一度欠伸をし、
「とりあえず、空巣の爺さんとこに預けた。ちょうど働き手が欲しいって愚痴ってたしなぁ。多分あの料理屋に住み込みで働いてるだろ。俺が考えるに帝都で五本の指に入る危険……違った、安全地帯だ。きっと、多分、恐らく大丈夫かなぁ?」
最後が疑問文になったのが少し不安だが彼が選んだ場所なら大丈夫だろう、と道真は判断し、
「クロさんには迷惑かけっ放しだな、いつか礼をするよ」
頭を下げた。
「やめろよぉ。ここが痒くなるからよぉ」
クロが照れてそっぽを向いて耳の裏を掻き始める。横で話を聞いていたひなたが、
「そうなんだー。アタシは話しか聞いてないから良く知らないけど良かったねー!」
そう言って裾にしがみ付いてくるひなたの頭を撫で、道真は近いうちに九〇課の人間全員とその料理屋に行こうと心に決め、思う。
――きっと、大丈夫さ。あの二人なら、いやあの二人だからこそ、絶対に大丈夫さ。
窓から見える空は青い。この青い空をあの二人も見ているのだろうか?
「むぅ、余は蕎麦など打ったことなどないぞ?ちなみにうどんもだっ!」
虎は割烹着を着て、目の前にいる鳥人の――正しくは鴉の亜種にあたるが――老人に言った。
「ほっほー、で? じゃから今こうしてワシが教えとるんだ! 混ぜろっ、捏ねろっ、叩けっ! ワシの全てを貴様にたたっ込んでやるっ! 答えは『はい』か『了解』だ! えーい、口答えするなっ! やれ、やらんか! 今やらん奴は一生やらん只の腑抜けだっ!」
一気に捲くし立てられ、反論することも出来ず、虎は老人の言うとおりに作業を再開する。その横で、
「そうそう、掃除は愛情。いつも使っているお皿や机に『ありがとう、頑張ってね』って思って綺麗にしてあげるのよ。あら、上手ねぇ」
雨は皿を布巾で拭いてしまっており、額には汗が滲んでいる。時たま、横に立っている蠍尾族の老婆が話しかける。
「はいっ、頑張ります!」
窓から青空が見える。虎が「出来るかぁっ!」と叫んだ後、老人にどつかれている。雨は虎と共についに手に入れた世界を何よりも愛おしく感じ、空を見つめた。




