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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

盗賊団と王と梵

作者: 青式部


ある人里離れた村落の一隅に古びた木造小屋が立っていた。

天井には蜘蛛の巣が張られ蛾の死骸が埃を被っている。

そこで大仰に座り祝杯を上げているのは、盗賊の頭『蓮』という寸胴のような体格の男である。

戦乱で孤児となり、寺院で育ったが、今では盗賊団を率いている。

この日も『蓮』盗賊団は、この村落を襲撃し、燃えさかる焔が夜空を照らしていた。


戸外では10尺はあろうかという白刀が目にも見えぬ速さで振り下ろされ、

その瞬間に村人たちの首が地面に転がり落ちた。

『煉』は切れ長の透き通った目をした、長身ですらりとした男である。

妬けになった村人達が一斉に向かってゆく。

だが風のように走り去る『煉』を誰も阻むことは出来ない。

村人たちは悲鳴を上げるまもなく足や腕が胴から切断され、次々に殺傷されてゆく。

かろうじて刀を交えたものも、斬撃の音が高く響いたかと思うと、刀をはじかれて惨殺された。

すべてが終わっても盗賊団は顔色一つ変えず、それが返って不気味であった。

戦意を喪失した女子どもは燃え盛る炎の中で呆然と立ち尽くしている。


村が一夜にして廃墟となったこの日、血の雨を浴びながらも生き残った『焚』という少年がいた。

『焚』が生き延びたのは奇跡であったが、その後の成り行きもやはり数奇なものであった。

諸国を放浪していた『淼』の内蔵助という剣客がたまたまこの村に立ち寄り、気まぐれで『焚』を連れ帰って育てたからである。

それから『焚』はあの剣術の鍛錬に励み、文献を紐解いて魔術を研究した。

そして諸国を放浪して技を磨き、『淼』に帰った時には右にでる者がいないほどの剣客へ成長していた。


そうしたある日のこと『焚』はとある噂を耳にした。

話では鬼神のような盗賊団が現れ、武家屋敷の立ち並ぶ城下町が一夜にして廃墟と化したというのだ。

さらに襲撃の跡には、町民の頭や足が細切れにされて残っていたという。

だが諸国を放浪して剣術と魔術を高めていた『焚』もやはり鬼神のような強さを手に入れていた。

自然と武者震いするのを『焚』は抑えることが出来なかった。

『焚』はすぐに叢雨という魔刀とも名刀とも呼ばれる大業物を用意し、盗賊団のいる『韻』へと向かった。

『韻』はしんしんと雪が降り積もる北国で、町を覆う銀世界が全てを飲み込んでしまいそうであった。


同じ空の下、『韻』には別の刺客が潜り込んでいた。

男の名はRUSSといい、北方の大陸から流れ着き、雑踏にある長屋の二階に間借りしている。

男の住む室内はうらぶれた街路とは対照的に、異国風の装飾がなされている。

だがRUSSを訪問する客は数えるほどしかいなかった。

RUSSはいつも神経質そうに苛立っていたからかもしれない。

事実、RUSSは反社会的な組織に加入していて、手紙は全て音信不通、自分をナポレオンの生まれ変わりだと狂信するような輩であった。

RUSSの部屋の引出しには時代遅れの科学の産物である旧型のピストルが隠されている。


 『韻』の率いる『蓮』盗賊団は一人一人が鬼神の領域にまで到達した忍びの中の忍び、歴史上にも類を見ない精鋭であったがひとつだけ秘密があった。

それは団員達がいちど死んでいるということである。

黄泉の国では赤い彼岸花が河岸に咲き誇るというが、『蓮』盗賊団は神の悪戯によって乱世に送り込まれた彼岸花なのかもしれない。

彼らは返り血を浴びながら咲き誇る、枯れることのない大輪なのだ。


 そうとは知らぬRUSSは旧型のピストルを隠し持ってツンドラ地帯の奥地にある『韻』の中枢「五輪郭」へと歩き始めていた。テロ組織上層部から国王銃殺命令が下されたのだ。木枯らしが吹きつけ体は縮こまる思いだったが、RUSSの頭は興奮で火照っていた。毎年この日『韻』では国家安泰を祝うパレードが行われるのである。「五輪郭」へ到着するとRUSSは群衆の中に身を潜め、国王が現れるのを待ち受けた。


 同じころ『焚』は広場を見渡せる小高い丘で古代魔術の儀式を執り行っていた。

国王の護衛として『蓮』盗賊団が現れると予想していたからである。

 『焚』は動きを封じる『縛』、魂を浄化する『逝』の儀式の準備をはじめていた。

 広場は国王を一目見ようと集まった人々で溢れかえっていた。

 『韻』は戦争とブラックマーケットで莫大な儲けを獲得しているから、国民は嬉々とした表情を浮かべている。

 そして魔術の準備を終えたころ、待ちに待った瞬間が訪れようとしていた。

 どこまでも水平に続く絨毯のような群衆をかき分け、国王とその護衛が拍手を浴びながらゆっくりと近づいてきたのだ。


 王達がじょじょに近づいてくるのを確認して、RUSSはコートの内ポケットに潜ませていた旧型のピストルに手を伸ばした。

 国王はもう目と鼻の先の距離にいて群衆に笑顔を向けている。

あとはナポレオンが何の躊躇もなく歴史を変えたように、狙いを定めて引き金をひくだけだ。

 ナポレオンを狂信しているRUSSは薄笑いを浮かべて引き金を引こうとした。

だがここで思いがけずどよめきが起こった。


 『焚』は王とその護衛達が熱烈な歓迎を受けているのを見て呼吸を整えた。

 そしてためらうこと無く人の動きを呪縛する古代魔術『縛』を執り行なった。

 一秒の狂いもなく国王が前屈みになった。

それから数秒、国王は微動だにしない。

 群衆たちが異変に気づきパレードは混乱の様相を呈しはじめた。


 RUSSはざわつく群衆に苛立ったが、すぐにピストルの照準を国王に定めなおした。

 国王は視線を空に向けたまま人形のように動かない。

 一発の銃声と共に国王の胸から赤黒い血が滲みでたとき、RUSSの頭の中につかえていた何かがはじけた。


 『焚』は突然の銃声に驚き、テロリストの銃弾に倒れゆく国王に目を向けた。

 後押しするような銃声が続き、国王はその場に倒れこんだ。

 もはや誰が見ても助かる見込みはない。

 しかしその段になって『焚』は恐ろしい映像を瞼に焼きつけることとなる。

 異様な殺気をまとったすらりとした男が、長さ3尺の白刀を煌めかせ、発砲したテロリストを背後から惨殺したのである。


現れた盗賊団を見た『焚』の脳内をアドレナリンが駆け巡った。

 脳裏にあの夜の映像がよみがえる。

 『焚』は間髪を入れずに『逝』を唱えたが、何故か盗賊団の動きは止まらない。

 それどころか盗賊団は『焚』に気づくと氷のような目で一瞥し、疾風のような速さで向かってきた。

 姿はみるみるうちに大きくなり、殺意が空気を歪ませる。


 戦争を影で操ってきた『韻』の国王は倒れ、今や世界の宿痾ともいうべき戦争屋は消滅した。

 だがこの盗賊団がいつまた世界を脅かす日がくるかもしれない。

 それに『焚』の村は二度と元には戻らない。

 『焚』の記憶がそうであるように。

 盗賊団に古代魔術が効かないとみると『焚』は叢雨の白刃を抜いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] お初です。 ちょっと自分の低い知能では読むのには時間が掛かりましたが(・ω・;) 面白さは抜群です。 正義感あふれるところには共感を持ちましたー もしよければ自分の小説も見てください^^
2011/01/14 21:58 退会済み
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