side /ハタノ(3)
「なぁ、おまえの同級生、結構かわいいじゃん」
同僚に声をかけられて、ハタノは改めてそちらに向き直った。
見事なネコの被りようである。
にこやかに話に相槌を打つユイは、まるでしおらしい女の子のようだ。
そして、こともあろうにハタノに呼びかける時は小首をかしげて「ねぇ、ハタノくん」と来た。
うわ!誰だ、おまえ?
いつもの機関銃のような早口とポンポン飛び出す罵詈雑言はどこにしまった?
ハタノは苦い顔でチューハイを飲み込んだ。
ユイに持ち帰られるなだのメアドの交換をするなだのと言ってしまった手前、自分も積極的に女の子との会話に加われなくなってしまった。
こんな合コン、幹事のやり損じゃないか。
次に話が来た時には断固として断わってやる。
「前回話ができなかったから、今日はゆっくり自己紹介してよ」
ユイの座る席の方から、同僚の声がする。
「ハタノと高校が一緒だったんだって?仲良かったの?」
一瞬、ハタノの方に確認するような視線が来たので、小さく×印を出す。
「ハタノくんは、理系クラスで成績良かったからぁ、接点はなかったの。テニス部は一緒なんだけど、あんまり合同練習なかったしぃ」
だからなんなんだよ、その語尾を延ばした喋り方。
気がつくと「目新しくて結構かわいい」ユイは、何人かの男に囲まれていた。
そしてハタノはそちらにばかり気が行ってしまい、他の誰かと喋れずにいる。
「時間でーす。二次会に流れる人は、外で少し待っててくださーい」
ユイとハタノが揃ってレジ前に並んで清算し、店の外に出ようとしたときに、ユイは大きく伸びをして呟いた。
「・・・疲れたー」
「でっかいネコ被ってるからじゃないか?」
「たしなみがあるって言ってよ!あたしだって、外聞ってモノがあるのよ!」
「いや、俺は今の今までおまえに、たしなみなんて感じたことないぞ」
「ハタノ相手に、なんでそんなもの感じさせなきゃいけないのよ!」
店を出た瞬間、ユイはまた見事に変身した。
二次会のカラオケで、ユイは困っていた。
ハタノの同僚の一人が、この後二人で抜けない?と囁いたから。
「でもぉ、あたし、今回幹事だし。ハタノくん一人にしたら悪いし」
ユイの助けを求めるような視線に、ハタノは席を移動する。
「ハタノ、おまえの同級生、連絡先も教えてくれないんだぜ」
ずいぶん出来上がっている同僚は、ユイの腕を掴んでいた。
それを見て、軽いショックを受けた自分がいる。
やばい、俺も結構酔ってるかも。
「こいつは、持ち帰り不可。連絡厳禁」
気がついたら、同僚に向かってそう言っていた。
なんだってこんなこと言ってるんだ、俺?
確かにユイ本人には釘を刺してたけど、他人に言うべきことじゃない。
ユイだって、びっくりしてるじゃないか。
なのに、自分の意思とは関係なく言葉だけが飛び出た。
「俺の目の前では、手出し無用」