side /ユイ(3)
「次の合コン、幹事頼むねっ」
ユイに声をかけてきたのは、カレがハタノと同じ会社に勤めているという同僚だった。
何ヶ月か前に開催した時に、ユイとハタノを除いて大層盛り上がったらしく
―ユイとハタノは何年振りかの再会が合コンだったというあまりのバツの悪さに酒だけを呑み続け、つぶれたユイをハタノが回収した、という経緯の―
また懇親会の名目をとる、ということだ。
何が懇親会?建設会社と医療器具販社に何の繋がりがあるの?
そう突っぱねてしまうには、同僚は不便な存在だ。
角が立たないように、自分の立場が悪くならない程度に断わるのは難しい。
「向こうに、高校の同級生がいるんでしょ。その人と組んでよ。お願い!」
片手拝みの同僚は、ユイの否定顔を無視するように言うと
「参加希望者は、この人数だから」と、明らかに仕事中に回覧しただろうと思われるメモを机の上に置いていった。
あたし、こういうの苦手なんだけどなぁ。
席がどうの、とか二次会の場所とか。気が利かないし。
第一、ハタノが一緒にいたら外面がきかないじゃない。
でも、今まで散々参加してきたし、断れないよなぁ。
ユイは複雑な気分でメールを打った。
―なんだか、二人で幹事やれって言われたんだけど。ユイ。
折り返し、返信が来た。
―俺も今言われた。明日、ヒマあるか?打ち合わせしよう。
ハタノも引き受けたようだった。
翌日待ち合わせた池袋で、「打ち合わせ」と言ったにもかかわらず、ユイはついていただけだった。
いくつかの店をピックアップし、その場で二次会ができるか、近所にカラオケがあるかの確認をし、テキパキとメニューとひとりあたりの予算を提示して店と交渉したのはハタノである。
金曜の晩は予約が面倒だと言いながら、しっかり幹事特権まで取り付けた。
「ねぇ、もしかしたらあたし、来る必要なかったんじゃない?」
ユイがおそるおそる聞くと
「他のヤツを連れてくるんだろ。場所覚えとけ。それくらいの役には立て」と返された。
一息ついた居酒屋でビールを飲みながら、ハタノはおもむろにこう言った。
「当日は一応、オンナノコ扱いするつもりだけど、持ち帰られたりメアド交換したりするなよ」
それって、どういう意味?あたしが他の男と仲良くしたら、不愉快?
そう、口に出す前に先が続いた。
「さすがに俺も知り合いと何かあったら、おまえのフォローできないから」
「ちょっと待て!あたしが振られること前提?」
「他の設定が何かあるのか?」
うっ、と言葉に詰まる。前科があるので、強気に出られないのだ。
しかも、ハタノの知り合いにカレシ募集中でーす、なんて顔はできない。
うまくいってもいかなくても、知っている間柄では気まずいことに間違いはない。
なんだか、ちっとも楽しそうじゃないんだけど。
保護者同伴の合コン・・・どうなることやら。
ユイが小さく溜息をついたことに、ハタノは気がつかなかった。




