side /ハタノ(2)
実は、照れてしまったのだ。
とんでもなくハードな仕事が一段落ついて、丸一日眠りこけた後ハタノがユイに電話をかけたのは、威勢の良いおしゃべりが聞きたかったからだ。
営業スマイルと怒鳴り声と緊張続きの打ち合わせですっかりヘタっていたので、気分転換には仕事とまったく関係なく気の置けない、できれば女の子の声。
ぴったりなのが何本もメールを寄越してるじゃないかと、そんな理由だったのに
「忙しかったのに、ごめん」
そう言われて、なぜかとても照れてしまったのだ。
容姿は確かに悪くないが、ハタノから見たユイは「女要素」に欠ける気がする。
高校生の頃に何ヶ月か付き合ったことはあるが
キスどまりでそれ以上に色っぽい展開にはならなかった。
再会してから会うのは常に酒を呑む場で、寝オチしたユイを運ぶことも少なくない。
正体不明になった女をどうこうってのは流儀に反する。
それをしちゃう奴の気持ちがわからないわけではないが、ユイを「そうしたい」とは思えず、それはとりもなおさずユイを「女だと思っていない」証拠ではないかと思う。
ユイはユイでハタノを男だと思っていないと思う。
「ハタノと会うのに、気を使ってもしょうがないじゃん」
と悪びれず、化粧ナシのシーンズ姿で現れることも多い。
まして「やり逃げされた!」と叫ぶ奴だぞ、あれ。
ちょっと待て。「やり逃げ」なんだから、他のヤツにはやっぱり女なのか。
少なくとも、ちょっと手を出してみようと思える程度には。
たった一言だけの労いとも言えない労いが、頭のなかにかすかに蘇る。
これって、新しい仕草を覚えた自分の子供を微笑んで見る親みたいなものかな。
自分を「保護者」と表現した顔を思い出し、ハタノは苦笑した。




