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final

高校で出逢ってから、ずいぶん長いこと経った。

再会してからも、紆余曲折があった。

一緒に暮らしはじめて、籍を入れると決めるまでに1年。

籍を入れるのなら結婚式を挙げろと、双方の親からせっつかれて、更に半年。

同級生のノリはそのままで、ポンポンと威勢の良い言葉が飛び出すユイも、今日はしおらしい筈だ。


同じ部屋から式場に向かうのは、なんだか照れくさくて、ユイは両親の泊まるホテルに一緒に泊まった。

朝、目覚めたハタノは、部屋の中に自分の布団しかないことが、少し不思議だった。

ああ、俺が出張のことはあっても、ユイが留守したことはなかったんだな。

歯を磨いて髭をあたって、食パンをトーストしながら、静かだと思う。

―野菜も摂りなさいよっ!血液ドロドロになるからっ!

大丈夫です、ユイさん。一食くらいではどうもなりません。


何の節目やら。もう生活はユイと共に在り、明日からも変わるものじゃないのに、やはり何かが変わる気がする。

ウェディングドレスを選ぶのに一緒に行くことを拒まれたので、ユイの心境にも何か普段と違うものがあるのだろう。

「馬子にも衣装ってくらいだから、さぞ化けるんだろうなあ」

「黙れ、ハタノのくせに。あたしは元から美しいんだから、後光が差す」

「言葉遣い、奥様らしく改めたら?」

「奥になんか居ないもん。外様と呼んで」

結婚の話をするためにユイの実家に行った時に、子供ができたら仕事を辞めるのだろうと言われたことが、根底にあるらしい。

「娘が都会で一生懸命働いてるってのに、あの人たちは簡単にそれを辞めろとか言う」

「田舎の主婦相手に怒るなよ。あの人たちの幸せを否定することになるぞ」


野暮ったい濃紺のブレザースーツにエンジ色のネクタイ。手を繋いで帰って冷やかされた高校生時代の、あどけなさの残るユイ。

再会した後の居酒屋メインの会話と、はじめてハタノの部屋でシャワーを使った時の、恥ずかしそうな顔。

アパートの更新の時に、どうせだから一緒に住まないかと提案したら、驚いた顔したっけ。

笑うユイ、怒るユイ、泣くユイ、眠るユイ。

明日からも変わらない生活なのに、何故今日が節目になるのか。

たった数時間の儀式と紙切れ1枚で、こんな心境になるなんて。


スーツに着替えたハタノは、電車に乗って式場に向かう。

翌日から3日間は休暇だ。新婚旅行は、折を見たタイミングで行こうと思っている。

明日は1日のんびりしよう。明後日はちょっと遠出して・・・あ、お祝い返しも買いに行かなくちゃ。

実用的な考えが浮かび、今ひとつ今日の主役の実感はない。


式場の入口で、ハタノはボードを眺めた。

「秦野家・楡井家 式場ご案内」

ひどく間抜けに、あれっと思う。

ユイって、今日からユイじゃないじゃないか。

職場での苗字は変えないのだと散々聞いていたのに、自分がもう、ユイをユイと呼んではおかしいのだと、今気がついた。

俺って、すごく迂闊。


新郎控室で着替え親族に挨拶していると、ユイの両親が顔を出した。

「もう、支度ができたのよ。見てきてやって頂戴」

導かれて新婦控室を覗くと、鏡の前に純白の後ろ姿を見た。

くるりと振り返った花嫁の顔は、今まで見た誰よりも綺麗で、言葉を失う。


「どう?カズオミくん」

いきなり名前で呼ばれて面喰い、ますます言葉が出なくなった。

両親が嬉しそうに、綺麗でしょうと念を押す。

ユイって、こんなに綺麗だっけ。

「あたしの美しさに、声も出るまい」

「うん」

「うわ、素直でキモっ!」

ユイの笑い声に、やっとペースを取り戻した。

「馬子どころじゃないや。ナナミさんに衣装」

名前で呼ぶのは、はじめてかも知れないな。今までの同級生ノリは、呼び名と共に変化するんだろうか。


祭壇の前で、ドアが開くのを待った。

バージンロードを、父親のエスコートで歩いてくる花嫁は、俯かずにハタノを見ていた。

白いドレス、白い手袋、左手に持ったブーケと同じ花が、ハタノの胸にも咲いている。

一礼して、父親の手からユイを受け取った。

今までで一番綺麗なユイ。おっと、今日からはナナミ。


式次第が終わり、腕を組んでフラワーシャワーを浴びる。

やっぱり、これは節目なんだな。

数時間の儀式と紙切れ1枚で、変化するものはあるんだ。

ユイからナナミへ変化するくらいの、小さくて大きい変化。


フラワーシャワーを抜けたユイは立ち止まり、後ろを向いたまま高くブーケを投げ上げた。


fin.

ごめんなさい。割り込ませました。


もうしませんとか言うと、舌を抜かれる気がします。

ハタノが好き、とか言われて嬉しかったんです。

ただそれだけで、追加しました・・・

こういう人間なのだと、ご容赦を。

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