side /ハタノ(11)
唇が出会った瞬間に飛びのいたのは、ユイのほうだった。
「なんで?おきてた?」
半分パニックに陥っている顔だ。
目覚める前に引き寄せようとした「あたたかいもの」がユイの頭だったと気がつき、ハタノは覚醒した。
一瞬言葉を失ったが、ユイのあまりの慌てように、腹の中に笑いの泡が浮く。
「寝てるからって、何しようと思ったって?」
笑いをこらえながら、起き上がって胡坐をかく。
パニック顔のユイは、芝生の上に正座だ。
こんな時は落ち着いてるほうがイニシアチブ取れるんだよ、バカ。
おろおろしてる顔が可愛いから、教えてやる気はないけど。
だって、あの、と言葉が続かないユイに、いつもの口調で畳みかける。
「続き、しなくていいわけ?」
「続きって!」
「おまえが行おうとしてた行為の続き。」
「行為って!」
悲鳴のような声に、笑いの泡がはじけた。
喉の奥がぐうっと鳴り、たまらず吹き出す。
半ば涙目になって恨みがましく睨みつけるユイが、ますます頼りない。
笑いがおさまらないまま、ユイの肩に手をかけて引き寄せる。
「おまえ、面白すぎ。」
その姿勢を崩さないように、逆の手で頤に手をかけた。
「じゃ、続き。」
相手から仕掛けられたことに、遠慮はいらない。甘い香りがした。
肩から腕を外した時、ユイの夢見るような表情に箍が外れそうになる。
その表情をどうにかしろ!どこかにしまっとけ!
「帰るぞ。」
そっけなく声をかけ、ハタノは立ち上がった。
「え?なんで?なんか怒ってる?」
ユイのますます戸惑った声に、また笑いがこみあげてくる。
このタイミングで、なんで怒ってるなんて思えるんだよ。
まだ座り込んだままのユイに、立ったまま腰だけ折って顔を寄せた。
「ここで、押し倒しそうだから。」
悲鳴を上げそうな表情のユイを残して、出口に向かって歩き出す。
2メートルほど歩いた時に、後ろでようやく立ち上がる気配があった。
振り向いたハタノは、繋ぐための手をユイに差し出した。
fin.
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
とは言え、続きではない(でも、このふたりの)話が一話残っております。
それをアップの上で完結にしたいと思います。
まだ、おつきあい願えると嬉しいです。
そして、できれば感想などいただければ。