side /ハタノ(10)
なるべく、しれっと普通に聞こえるように言ったつもりだ。
イヤだと言われたら手を離す気だったが、言われないと確信していた。
案の定、言葉に詰まったユイの手を離さないままに歩く。
ハタノは今日の短時間で、ここ数ヵ月中にまったく気付かなかったことに気がついた。
ユイは案外と恋愛スキルが低い。
即物的な恋愛ばっかりしてるからだ、バカ。
普段の威勢の良さとは違う困った表情が頼りなくて、つい、からかいたくなった。
面白がっているうちに、ユイの表情から目が離せなくなった。
自分の視線にコントロールが利かない。墓穴掘ったか?
出店していた男に「誰にも貸さない」と言った時には、すでにそれが本音だと自覚していた。
そうだよ、認めるよ。もう、認める。
俺はユイをまるごと抱え込みたいんだ。
もしユイが拒否するんだとすれば、それはユイ自身が決めることだ。
そして今日のユイを見る限り、俺には拒否されない自信がある。
涼しげな芝生の上に腰をおろし、ペットボトルのお茶を口に含んだ途端、眠気が襲ってきた。
そう言えば一昨日は会社に泊まりで、昨晩寝たのは朝の三時だ。
腕を枕に寝転がると冷たい芝が心地いい。
「――ごめん、限界。十分だけ寝かせて。」
なんで眠くなるかな、こんな時に。
ブラック・アウト。
白っぽい眠りの中で、優しい手に髪を梳かれた感触がある。
甘い香りがして、何やらあたたかい気配が近付いてくる。
その正体を見極めようと、ハタノは気配を引き寄せた。