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side /ハタノ(1)

軽快な着信音が鳴って、メールが届いた。

―7時に飯田橋の天狗ね。ユイ。

ご丁寧にハートマークまで入っている。

勝手なヤツ・・・ハタノはこっそり溜息をつき、ケータイを閉じた。


高校卒業以来、6年ぶりにひょんなところでユイに再開して以来、半年が経った。

「幼馴染として」ちょっとずつ交流をするようになり、素でつきあえる数少ない友達になった。

しかし、半年経った今、ハタノはユイのサンドバッグである。

仕事への不満、上司への不満、同僚への不満、女友達への不満。

まるでハタノが不満の相手でもあるかのように、当り散らし、クダを巻く。


なんで、あんなのの酒の相手をするのかな、俺。

放っておけば、今まで一人で解決してたんじゃないのかな。

居酒屋までの道を歩きながら、ハタノはまた溜息をついた。


ユイは、先に到着していた。もうすでにサワーを一杯飲み終えたらしい。

「お待たせ」と向かい側に座ると「遅い!」と返事が返ってきた。

「残業中にお呼びがかかったって、仕事優先だし」と言いながらメニューを広げると

「仕事よりも友達優先!甲斐のないヤツ!」とふてくされた声が戻った。

「ちょっと待て!まず、メシ食わせろ!話はそれから聞いてやる!」


とりあえず腹が満たされるまで待ったことは評価してやろう、とハタノは思う。

ずっと噛み付きそうな顔をしていても、我慢したのだから。

「で?どうした?」聞いた途端、爆弾が投下された。


「やり逃げされた!」

え?今、とんでもない言葉を聞いたような。聞き返す度胸は、ない。

「先週の合コンで会って、メアド交換して、次の日に会ったの。そんで、その翌日からケータイに着信拒否かけられた」

「なんで、そんなのについてったんだよ」

「ちょっとイケメンだったし、勤め先は(ハタノの会社より5倍は大きい企業だ)だし、あたしのこと、すっごくタイプだって言ったし!」

そりゃあ、下心があれば優しくするだろうなぁ。ハタノは天井を仰いだ。


「最初から一晩だけって言えば、あたしだってのこのこついてかない!悔しい!」

いや、一晩だけなんて言ったら、ついて来ないからこそだろ、とは思うが言えない。

「あたしのこと、可愛い、タイプだ、って合コンの時から言ってたのに!」


「おまえさぁ、そいつの目の前で、ネコ何枚被ってた?」

ユイは、そこそこ可愛い。そして、女の子らしく見える。見えるだけかもしれないが。

「なによ!男の前でネコ被らない女なんていないわよ!」


「おまえ、俺の性別忘れてない?」

「種別的には、男。だけど、今はあたしの保護者」

「俺はおまえを生んだ記憶はない!こんなバカを育てた記憶もない!」

ユイは一瞬黙った後に言い返した。

「だって、ハタノになら地金がバレてるから今更ネコ被んなくていいし!」

「いや、たまには被れ!そして暴露話はオブラートぐらい使え!」

「うわ!生意気!ハタノのくせに!」

「バカの話を毎度聞いてるこっちの身にもなれ!バカ!」

「そのバカの話を毎度聞きに出てくるんじゃないの!バカ!」

酔っ払いの話に限りは、ない。


ラストオーダーまで粘り、結局歩くことも儘ならなくなったユイをタクシーに蹴りこみながら、行き先を告げる。

また、寝オチか。

実は、すごく傷ついてたりするのかな。

ハタノは考えながら、少し保護者の気分でユイを見た。

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