side /ユイ(10)
繋いだ手が、熱い。
ハタノが離してくれないから。
離して欲しいのか、このままでいたいのか、それはユイにもわからない。
賑やかな場所で、話す声は聞き取りにくい。
まして、売り手と買い手が大きな声で交渉しているような場所だ。
「見たいものとかあったら言えよ」
いきなり耳元に顔を寄せられ、思わず姿勢が後ろに傾くと、からかうような視線にぶつかった。
「照れてんのか?」
「誰が!ハタノに対して手ぐらいで今更照れない!」
ハタノの余裕の表情が、悔しい。
歩いていると、こちらを見上げた出店者の若い男と目があった。
「新婚さん?仲いいね、手なんか繋いじゃって。安くするから見てってよ」
新婚じゃないし!そんな関係にも至ってないし!
頭の中でジタバタするユイを見下ろして、笑いながらハタノが言う。
「安くしてくれるって言ってるけど、どうする?奥さん」
男は気安い性質らしく、軽口が続いた。
「こんな可愛い奥さん、いいねぇ。たまに貸してよ」
そう言われた次の瞬間、肩をすっぽり抱かれてユイは固まった。
「ダメだね。誰にも貸さない」
ちょっと待って!あたし、この遊び無理!ダメ!これって、拷問!
声にならない悲鳴をあげてハタノを見上げるユイを、見返す目が笑っている。
面白がっているのが見てとれて、余計に悔しい。
あたしが動揺しまくってるの、バレてる!どうしたらいい?
「人酔いした。ちょっと休憩していい?」
そういえば、朝から疲れた顔をしていた。無理してくれたんだと思えるくらいには。
ハタノが手を握ったまま芝生に踏み出したので
「もう、混雑抜けたからはぐれないよ?手、離してもいいんじゃない?」
と、自分から見てもやけに気弱な抗議をした。
ダメ、とにべにもない返事をされて、どんな顔をしていいのかわからない。
「俺がこのままでいいと思ってるんだから、いいんだ!」
「なんでそこで俺様発言よ!ハタノのクセに!」
「じゃ、イヤか」
まともに視線が落ちてきた。目をそらすこともできない。