side /ハタノ(9)
絶好のフリマ日和。
晴天が、ハタノの寝不足の目に突き刺さる。脳味噌、融けそう。
今日も休日出勤を迫られ、どうにか昨晩のうちに仕事をやっつけて帰宅したのが終電だった。
そこまでしてユイに会いたいのか、と自分に問えば答えは躊躇いながらのイエス。
待ち合わせ場所で顔を見たとき、ユイの髪の中に手を入れて掻きまぜたくなった。
代々木公園のフリーマーケットは盛況で、しかも出店者が多い。
気がつくと、隣を歩いている筈のユイの姿はなかった。
慌てて来た道を戻ると、なにやらしゃがみこんで物色している。
見下ろす角度で見ると、小さな子供みたいだ。
小さな買物を済ませたユイは、立ち上がってハタノに振り返った。
「止まるんなら、止まるって言えよ。急にいなくなってびっくりした」
「ハタノがどんどん先に行っちゃうんだもん」
「これじゃ、いつかはぐれるな」
どうしようか、と考えた後ハタノは左手をユイに差し出した。
「お手!」
「あたし、犬?」
「手ぇ引いてやるって言ってるんだ!リードじゃないだけ有難いと思え!」
自分の顔に血がのぼってくるのがわかり、殊更にぶっきらぼうになった。
でも、と戸惑うユイの右手を強引にとる。
女の子の手って、こんなに柔らかかったかな。
耳まで赤くなったユイが慌てて手を引っ込めようとするのを、更に力を入れて逃さないようにする。
中学生の初デートか、これ?
「恥ずかしいから、離して!」
「誰も知ってる顔なんかないし。おまえ、迷子になるからダメ」
手なら、何回も繋いだじゃないか。高校生の時に。
思い返して見下ろすと、ユイはまだ顔を赤くしたまま心持ち俯いて隣を歩いている。
「下向いたままじゃ、買物なんかできないだろ」
声をかけたら空いている手をバタバタと振り回した。
もう、繋いだ手を離す気はないかな。
目が会うと、恥ずかしそうな怨みがましい目が見返してきた。
こんなに可愛い顔ができるなんて、今までどこにそれを隠してたんだろう。
もしも気がつかなかっただけなんだとしたら。
俺って、やっぱり迂闊。
もったいないことしてたのに、それに気がつかなかったなんて。