side /ハタノ(8)
3回目だぞ。都合悪いって、なんだよ。
じゃ、次はいつにする?なんて話にも持っていってないし。
ハタノははっきりと不機嫌を自覚した。
芝居を一緒に見に行ってから、3週間が経過していた。
俺を避けているのか。何か怒っているのか。
それとも、考えられなくもない―――男?
男ができて、俺と会うと悪いから、とか。
ありえなくない、いや、それが一番可能性が高い。
天下一品のネコ被りだし、合コンで相手みつけちゃうヤツだし。
確認しなくていいのか?
自分から報告してこない以上、俺に言いたくない相手かもしれない。
俺は、それでいいのか?
いいわけ、ないだろ!
携帯電話を操作して、ユイの番号を呼び出す。
「何?」
ケロっとした返事に、気勢をそがれた。
俺って、もしかしたらすごいヘタレなんじゃないか?
「ずっと都合悪いって返事ばっかりだからさ、ちょっと気になって」
出てきた言葉はひどく尻すぼみで、ハタノは自分が情けなくなった。
「うん、ごめん。ちょっと勉強しなくちゃならないこともあったし」
ユイの言葉も妙に歯切れが悪く、ぎこちない沈黙がある。
「勉強って何してるんだ?事務職だろ、簿記かなんか?」
「手話。ビデオ学習だけど、なかなか難しくて」
ひどく言いにくそうな答えが返ってきた。
また、真っ赤になって照れてるんだろうか。
びっくり箱みたいなヤツ。
何故、その勉強をするのかは今度まとめて聞いてみよう。
「でもさ、それって毎日根詰めてる訳じゃないんだろ、出て来いよ」
ちょっと強引な言い分かな、と思いながらそう言うと、意外な返事が返ってきた。
「休みの日の昼間なら、出てく」
つまり休みの日にデートの予定はないわけだ、とハタノは心で小さく息をついた。
「じゃ、日曜日に代々木公園のフリマはどうだ?」
それ行きたい、とユイは同意し約束になった。
言葉の歯切れの悪さは気になるが、会えば元に戻るだろう。
よし、とハタノが小さくつぶやいた意味は、ハタノ自身にもよくわからなかった。