side /ユイ(8)
―ちょっと都合悪い。また今度。ユイ。
携帯電話の送信ボタンを押した後、溜息をついた。
嘘をついたのが後ろめたくもあったが、ほっとしたのも確かだ。
今ハタノと会ったら、また挙動不審になる。
あたしはハタノとどうしたいんだろう。
あたしの八つ当たりを何事もなく流してくれるから?
バカな話で際限なく盛り上がれるから?
酔いつぶれても見捨てられたりしないから?
それだけの理由で、何ヶ月も頻繁に会っていたの?
だって、男だと思ってなかったし。
少なくとも、そうなりたいと思ったことなかったし。
ハタノだってきっと同じで、あたしと何かしようと思ったことはないと思う。
酔ったイキオイですら、今まで何もなかったんだから。
「やり直し!ちょっと頭からこの案件は外すっ!」
杏露酒に氷を入れながら、部屋の中でひとりで声を出した。
「考えても仕方ないことは考えなくてもいいこと!」
頭の中で突き当たってしまった考えなど、曲がる方向が見えるまで放っておくことにしよう。
ファイト!と自分に気合を入れて、ベッドに倒れこむ。
酔って寝てしまえ。
こんな時にこその浅い眠りの中で、いくつか寂しい夢を見たらしい。
内容は皆目覚えていないのだが、夜中に目を覚まして起き上がるとなにやら心細くなった。
午前1時。ハタノはまだきっと、起きている。
ついこの前まで平気で電話してた時間なのに、なんでこんなに重いことになっちゃうんだろう。
関係なんかひとつも変わってないのに。
でも今、ユイの中で自分への問いはひとつ解決した。
あたしは多分、心細い時にハタノに頼りたいんだ。