side / ユイ(7)
昼公演が終わって劇場を出ても、外はまだ充分に明るかった。
芝居自体は「ウエスト・サイド物語」を幕末に設定した悲恋もので、マリアにあたる所の役柄が「誰が彼を殺したの!」と叫ぶくだりで感極まりそうになったが、ハタノの前で少しでも女の子のとりそうな行動をしたくない、とユイは妙な自制心をおこした。
だって、ハタノはあたしにそんなこと望んでないもの。
「まだ酒って時間でもないし、コーヒーでも飲もうか」
そう言って歩き出したハタノの横に並びながら、自分の気持ちの不安定さが癪に障る。
いつもと同じなのに。会って一緒にごはん食べて、バカ話して。
―どっちかに相手ができたら、もう一緒に遊べないじゃない?
女友達の軽やかな声が聞こえてきた。
そんなことないって言いたいけど、本当はきっとそうなる。
女友達よりも恋人優先なのは、当然だもの。
ハタノが今まであたしのグチを聞いたり、酒の相手をしてくれたりしていたのは、多分フリーだって理由だから。
カウンターで隣合ってコーヒーを飲みながら、ユイはまだ上の空だった。
「おまえ、今日何かヘンじゃない?」
「そんなこと、ないと思うけど」
ぐっと顔が寄って、掌が額に当てられた。
「具合悪いのとか、黙ってんじゃないのか。熱は?」
「うわ、なにそれ!あたしは子供か?」
思わず顔をのけぞらせて逃げる。自分の顔に血がのぼるのがわかった。
やだ、高校生みたい。今までだってこんなこと、何回もあったのに。
しかも相手は、体裁の取り繕いようもないハタノなのに。
表情が作れなくなって下を向いてしまったユイの背を、ハタノが軽く叩いた。
「なんだか調子悪いみたいだから、帰ろうか」
そう言いながら立ち上がるので、ユイも席を立った。
「なんだかわかんないけどさ、言いたいコトは溜めないほうがいいぞ。グチならいつでも聞いてやれるし、元気がいいのが数少ない美徳だし」
「数少ないって失礼な!」
言い返すと、その調子、と笑われた。
そのまま改札まで行き、手を振ると虚脱感がきた。
友達って立場は、居心地が良すぎだ。