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side /ユイ(6)

何、着て行こう。

ユイはクローゼットの前で腕を組んだ。

馴染のないところに出かけるときの、お約束の光景である。

ずいぶん前に友達に誘われて行ったことのある小劇場は、椅子ではなく床に座った。

知らずにスカートで出かけたので、芝居の間ずっと足が辛かった。


ハタノの知り合いが出るんだって言ってた。

挨拶なんかされた時、あんまり構わない格好だとハタノに悪いかな。

ダサい女連れてたなんて言われたら、イヤだろうし。

ちょっとだけ、可愛くしていこう。

ジーンズに女の子らしいトップスを選び、ベッドの上に並べてからシャワーに向かう。

ひとりの部屋の気楽さで、バスタオルを巻いたまま下着の引き出しをあけた時に、頭に突拍子もなく浮かんだことがある。


可愛い下着にしとこうかな。


次の瞬間にパニックが訪れた。

ちょっと待て、あたし!今日の待ち合わせがハタノだってわかってる?

そんな展開、ありえないし!

よしんば片方がそうなりたいと思ったって、今更どの面さげて!

と自分に啖呵をきる一方で、意外にリアルに想像してしまい、ユイは部屋の真ん中でひとりで赤面しながら気がついた。


今まで、こんなことは考えもしなかった。

高校生の頃につきあっていたとはいえ、その後のハタノは知らない。

面倒見の良さがそのままだったから、学生ノリがこのまま続くと思っていたけれど、もし昔から知ってるヤツじゃなかったら、ハタノってどういう男?


家を出る時間が近い。

グルグルし始めた思考をとりあえず放っておくことにして化粧を済ませ、部屋を出た。

電車の中で、俄に自分を立て直す。

とりあえず仲の良い友達、但し性別男ってことで深く考えないことにしよう。


そして、池袋駅。

待ち合わせはメトロポリタンプラザの前なので、東上線の一番前の出口に向かう。

その時白杖をついた年配の男性が、明らかに不慣れな足取りでユイの前を歩いていた。

改札の出口でタクシー乗り場への道を、駅員に確かめている。

待ち合わせにはまだ、十五分の余裕がある。


ユイは男性の前に回り、声をかけた。

「あたしもそちらの出口に用事がありますから、よろしければタクシー乗り場までご一緒しましょうか?」

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