side /ユイ(1)
合コンで「お持ち帰り」された。
気持ち悪い・・・それで、目が覚めた。ココはドコ?
部屋をぐるっと見まわした後、ユイは酔いの残った頭を抱えた。
あぁっ!こんなヤツと何したの、あたし!
隣でまだ狭そうに縮こまって寝ているのは、高校生の頃の彼氏だった。
はっきり言って、まったく覚えてない。
服に乱れはないから、そのまま寝入ってしまっただけかもしれないが、コトが終わったあと帰るつもりで自分で着たのかも知れない。
スキニーのジーンズなので、意識不明の女に他人が穿かせるのは不可能だ。
だいたいが、なぜその部屋にいるのかさえ、ユイは記憶していない。
合コンの席に、ハタノがいたのはまったく偶然だった。
会社の同僚が主催で、同僚のカレが勤める会社との親睦会の名目だった。
「お前、なんでこんなところにいるんだよ!」はご挨拶だが
「なんで今更あんたと合コンしなきゃならないのよ!」と答えたユイも大層なものだ。
知り合いならば、と隣同士で座らされ、お互い横を向きながらもお目当ての相手を物色するにははばかられ、イタズラに酒だけを呑み続けた。
――そこまでは覚えているのだが。
ユイは呆然と、寝ているハタノの背中を見ている。
そういえば、あたし、なんでこいつと別れたんだっけ。
なんだか、癪に障った記憶だけがあって、その原因は覚えてない。
あたしが一方的に怒ってた気がする。何だっけ?
あたし、そもそも瞬間湯沸かし器だし。
小さく伸びをして、ハタノが薄く目を開けた。
「おはよ。気持ち悪くない?」そう言いながら胡坐をかき、枕元にある胃腸薬をユイに放った。
「とりあえず、出すもの全部出したみたいだけどな。飲んどけ」
そうだ、ハタノは気が回るヤツだった、とユイはすこし懐かしく思い返して・・・
「え?あたし、吐いたー?」
ハタノは呆れたように苦笑した。
「覚えてないのか?そりゃそうか。居酒屋の階段で動けなくなって、知り合いならつれて帰れって押し付けられて、タクシーに乗せれば行き先言う前に寝やがって、あげく、タクシーの中で吐くし」
ユイの顔はどんどん下を向いてゆき、トドメのようにハタノの声は続いた。
「俺のスーツに肩からぶちまけやがった。」
ゴメン、と身の置き所もなく小さくなったユイに
「ま、やっちゃったことはしょうがないけどな。スーツのクリーニング代は請求してやる」
と、ハタノは肩を小さくゆすった。
「高校生の頃と変わんないな。強情で威勢がいいくせにすぐヘコむ。」
ハタノは普通に淡々と何年の前もの話をしていたが、ユイの覚えていないことまでよくもまあ、覚えているものだと感心する。
「とりあえず、薬が効いて胃が楽になるまでもう一回寝とけ」
布団に押し込まれながら、ユイは思い出した。
別れた原因は子どもっぽくて、だけど強い嫉妬だった。
そうだ、原因はあたしだった。
ひとつ、確かめておきたいことがあった。少なくとも、ユイのほうは。
「ゆうべ、あたし、やった?」と単刀直入であまりに直截的な質問に、ハタノは一瞬何を?と迷う顔になった。
「吐きまくって正体不明のヤツと何かしようなんて思うか、バカ!タクシーの迷惑料も返せ!」
赤くなった顔が、まるで高校生の時と同じで、ユイは笑い出した。
「バカが人の顔見て笑うな!迷惑かけた上で疑うな!おまえ、何様だ?」
こんなにムキになるヤツだったっけ。
「つまんないこと考える前に、とっとと寝て、とっとと帰れバカ!」
額まで布団を持ち上げながら、もう一度高校生に戻ってハタノと新しく友達になれたらいいな、と考えてユイは眠りにおちた。