衝
三題噺もどき―きゅうひゃくよん。
朝から元気な声が聞こえる。
よくもまぁ、こんな時間から動けるものだ。
極力運動というモノをしたくない私には考えられない。
朝練とか毎日している人いるんだろうか。
「……」
すん、と鼻を動かせば少し雨の匂いがした。
今は空を白い雲が覆っている。
雨の予報はあったけれど、午後からだったはずなんだが……最近はあまり予報もあてにならない気がするなぁ。
「……」
ビュウ―と生ぬるい風が吹きつけてくる。
これが多少涼しければもっとましなのに、なんでこんなにぬるいんだろうか。暑さに拍車をかけるだけの風なんて意味なくないか。風は涼しくてなんぼだろう。
「……」
校舎の塀沿いから校庭の回りにまで植えられた木がざわざわと揺れている。これも桜の木のはずだ……こういう校庭の大きな木って銀杏だと勝手に思っていたんだけど、学校によって違うんだろうか。そりゃそうか。
「……」
まぁ、まぁ、そんなことはさておいて。
私も用事を済ませてさっさと教室に戻らなくてはいけない。
朝練をしている時間に来ているが、もう少しすれば0時間目とか言う意味の分からない授業が始まる。今日は英語。
「……」
きょろきょろと校庭を見回してみる。
いつもはあの辺に居るのだけど、はて……すれ違いで職員室に戻ったんだろうか。
朝練をしている部活の教師に用事があったのだけど、その姿が見当たらない。
いつもいる癖に今日に限っていないなんてことはないと思うんだけど。
「……」
そもそもこんな朝一で渡すようにと言ったのはあちら側である。
それなのに職員室に居なかったり、教室にもいなかったり、校庭にもいなかったりするのは何なのだろう。別に私はこれ急ぎじゃないからいいんだけど……。
「……」
暑さと、見つからなさに、少々イライラし始めた。
その矢先に。
「――ぶない!!」
「―は、」
遠くから聞こえた声と、その直後にドン―!と何かが背中に当たった音がした。
衝撃と勢いに一瞬呼吸が止まったような気がした。
足がよろめいた気がしたが、幸い倒れるようなこともなく、当たった個所以外の痛みは特になかった。
「大丈夫ですか!」
足元に転がってきたのは硬球。
駆け寄ってきたのはグローブを片手につけた生徒。
あの教師の見ている野球部の生徒のようだ。
「すみません!」
「あ、いや、大丈夫です」
転がったボールを拾い、手渡しながら答える。
衝撃に驚きはしたが、さして痛みもないので、少々痣ができるくらいだろう。
しかしこの距離を打ったのか投げたのかは知らないが……すごいな。
一応後で保健室に行っておこう。
そういえば、保健室に行ったと言うとあの子が若干拗ねるんだよな……何なのだろう。
「あの、それより、―先生どこですか」
「あ、えーと、さっき職員室に戻りました」
「そうなんですね、ありがとうございます」
ならばもうここに居る用はない。
さっさと校舎に戻って、あの先生の居る職員室に行かなくてはいけない。
それでこれを渡して、時間があれば保健室にもよっていこう。
当たった個所だけではあるが、ジクジクと痛みだした……ぶつかった瞬間は痛みで頭が混乱したのかそこまで痛くなかったのに。
「すみませんでした」
「あぁ、いやホントに、大丈夫ですから」
わざわざ帽子を取って頭を下げるその姿に、礼儀のいい子なんだなと感心しながら、その場を離れる。そういえば、前かすめたときもあの子が来たような……。
「……」
まぁいいや。
さっさと用事を済ませてしまおう。時間が思ったよりなくなってきている。
お題:桜・硬球・雨




