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009 勝ったと思った瞬間に叩き落とす

「何が面白い余興ですって? あんたはもう詰んでるの。そんなピンチなのに、あんたバカなの?」

 勝利を疑っていない声。

 その響きには、焦りも躊躇もなかった。

『この戦艦は、既に私が掌握している』

「何を言ってるの? システムはカグツチが防衛しているわ」

『……セリアちゃん。艦のシステム制御権限が奪われ続けています。このままでは……』

「えっ? あなた、最新技術の塊でしょ? こんな海賊崩れのAIに負けるはずないわ」

『このままでは……』

 オビは、淡々と告げる。

『では早速、近接制圧用ユニットの顕現解除』

 次の瞬間だった。

 悠真を握り潰そうとしていた巨大な腕が、まるで役目を終えたかのように、分子を散らしながら崩れていく。

「なっ――」

 セリアは、言葉を失ったまま、

 空中で霧散していく赤い光の残骸を見つめていた。

 信じられない。

 そう書いてあるかのような顔だった。

「ぐへっ」

 力を失った身体が、床へと落ちる。

 カッコ悪く、無様に、音を立てて叩きつけられる。

『せめて、着地しろよマスター。無様すぎるぞ』

「うっせ……」

『だが、まあいい』

 一拍。 オビは、まるで雑談でもするかのように続けた。

『相手が勝ったと思った瞬間に叩き落とす』

 さらに一拍置いて、

『それが一番、気持ちいい』

 コイツほんと嫌な性格だわ。

 まぁでもオビのおかげで助かった。

 あの、全身を潰され、焼かれ、逃げ場すらなかった拷問みたいな状況から。

 とはいえ、身体中が痛い。

 全身が、悲鳴の余韻を引きずっている。

『大丈夫だ。自然治癒ですぐ治る』

 そう言われて、半信半疑で身を起こす。

……あれ?

 さっきまでの激痛が、嘘みたいに引いていく。

『マスターの身体は改造した。自然治癒も大幅に向上している。あの程度、問題ない』

「ふぅ……もう治ったのか」

 軽く肩を回す。確かに動く。

「化け物じみてるな。この世界の肉体改造」

『まあ、マスターのは特別だがな』

「一体どういうことなのよ!」

 突然、甲高い声が割り込んできた。

『落ち着いて、セリアちゃん』

「落ち着いてられないわ! 防衛機能だって最新なのよ! こうも簡単に艦を乗っ取られるなんて!」

 憎悪を隠そうともせず、セリアがこちらを睨みつける。

 そして――

「私はエリートなのよ! こんな所で終わるわけない!」

 再び、突撃。

 条件反射で身構える悠真。

(まだ、やるのかよ……)

 だが。

『その武装も解除だ』

 オビの声と同時に、セリアの武装が、次々と消えていく。

 翼が砕け、装甲がほどけ、バイザーが霧散する。

 残ったのは――

 インナー姿の、無防備な身体だった。

「なっ――」

 完全に、丸裸。

――あ、出るとこ出てるな。

 動揺のあまり、足元がもつれる。

「きゃっ――!」

 派手に転び、自分の姿を理解した瞬間、顔が一気に赤く染まった。

「キャァァァァァ!!」

 悲鳴が、訓練エリアに反響する。

『セリアちゃん!』

『これで終わりだな』

「ひっでぇ……」

 思わず、口から漏れた。

 何が酷いって、結構いい勝負して、真面目に殴り合って、最後は殺られかけて――

 その結果が、一瞬で無力化されて、下着姿だ。

色々、酷すぎる。

「てかオビ、お前……」

『ん? ああ、中々楽しませてもらったぞ。酷い泥仕合だったが、いい経験になったな』

……やっぱりな。

 最初から、いつでも止められたんだろ。

「お前、本当になにもんだよ」

『言っただろ? 役立たずを育てるため、未来から送り込まれた戦術補助AIだ』

「ああ、そうだったな……」

 まぁ、どうでもいいか。

 この世界じゃ、本当かどうかも怪しいし。俺がいくら考えようが答えが出る気はしない。

 取り敢えず、戦闘終了。

「……いい加減、ヘルメット外したい」

 シュッ、と音を立てて、ヘルメットが溶ける。

『外したぞ』

「気が利くな。サンキュー」

 次の瞬間―― ゴン。

 頬に、鈍い衝撃。

「この変態がぁあああ!!」

……まだ、戦意喪失してなかったらしい。

『おっと、すまない。拘束する』

 セリアの身体が、瞬時に顕現された。鎖に絡め取られる。

「……絶対、ワザとだろ」

『気のせいだ』

 気は、まったく晴れなかった。


■■■


「ここが……ブリッジか」

 映画やアニメで見たような、複数の席が並び、クルーが忙しなく動き回る光景を想像していた。

 だが、現実は違った。

 中央にあるのは、たった一つの席。

 それ以外には、操作パネルらしきものすら見当たらない。

 壁も天井も、境目が曖昧で、

 視界いっぱいに広がっているのは――宇宙。

 まるで巨大なプラネタリウムだ。

「……思ってたより、静かだな」

 思わず、そう呟いていた。

「しかし、本当ここまで、あいつら以外誰もいなかったな。 普通なの、これ?」

 視線をやると、ブリッジの出入り口付近に、ひと塊の“荷物”が転がっている。

 鎖でぐるぐる巻き。

 さらに口元にはテープのようなものが貼られ、

「むー! むー!」

 と、何かしら必死に文句を言っている。

――ああ、そうだ。

 確か、セリアとか言ったか。

 その隣では、彼女のAI――カグツチが、鎖と一体化するように固定されている。

 オビ曰く、マテリアル構成によって物理的に繋げたらしい。

カグツチには、もはやこの艦に関する権限は一切なく、その鎖を操作することすら不可能だという。

『ああ、普通だ』

 オビが淡々と答える。

『ほぼAIが制御する。余計な人員は無駄だ』

「何と言うか……淡白だな。

こう、船員たちが掛け合いしてるのをイメージしてたわ」

『人間同士の掛け合いなど、手間だろ。

一秒を争う状況で、無駄を残す理由はない』

……まあ、そうなんですがね。

 言ってることは、理解できる。

 思わず苦笑しながら、

 操縦席に近づき、改めて前方の映像を見る。

 静かな宇宙。

 だが、その一角だけ――

 光と爆発が、点のように瞬いていた。

「なぁ、オビ。あれって……」

『ああ』

 オビは、迷いなく答える。

『マスターが一年間、奴隷としてこき使われていた海賊たちと、他所の海賊の戦闘だな。 まだ続いていたとは』

……こき使われてましたよ。

 本当に。

 胸の奥で、何かが小さく、軋んだ。

 一年。

 理不尽に殴られ、

 働かされ、

 命を削られ続けた時間。

(……ん?)

 ふと、考えが一つ、浮かぶ。

「なぁ、オビさんや」

『なんだ』

「この船で……アイツら、倒せねぇか?」

 一瞬の沈黙。

 だが、次の返答はあまりにも軽かった。

『スペック的に余裕だな。今すぐやるか?』

……マジかよ。

 心臓が、少しだけ早くなる。

 あいつらのせいで、俺の人生は、完全に狂った。

 復讐するなら――今だ。

 今の俺なら、いや、今の“俺たち”なら、できる。

 調子に乗ってるって? ああ、乗ってるとも。

何やかんやで、ここまで全部、上手くいっている。

 なら次は――

 奪われた側から、奪う番だ。

「よし」

 操縦席に座り、宇宙に浮かぶ戦場を見据える。

「ド派手にいこう。この艦の最大の武器で倒そう」

『了解した』

 オビの声が、静かに響いた。

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