008 面白い余興
凄まじい衝撃だった。
それでも気絶しなかったのは、身体を改造したおかげなのだろう。
耳鳴りの奥で、甲高いアラームが鳴り響く。
ハッチが開いた。
目の前に広がっていたのは、長い廊下だった。
どうやら侵入には成功したらしい。
コクピット部分だけが艦内に突き刺さり、根元に空いた穴は、何か粘性のある液体で塞がれている。
空気が漏れていないあたり、これもこの世界では当たり前の技術なのだろう。
……やたらSFらしい。
機体に張り付いていた黒いものが、ぬるりと剥がれ、俺の身体へと戻ってくる。
オビが何かしたのだろうが、深く考えるのはやめた。
今はそれどころじゃない。
『侵入成功。これより内部制圧に進むぞ』
「おう。取り敢えず、あの女を見つけるんだよな?
何かしら方法はあるのか? このままデタラメに探すだけじゃ疲れておしまいだろうし」
『任せろ。既に艦内のスキャンは完了した。敵の行動も把握している。
マスターは進め。向こうが勝手に案内してくれる』
淡々とした声。
『私は身体の一部を分離し、この戦艦のシステムをハックする。 壊れた機体から適当なライフルを構成した。これで撃ちまくれ』
そう言った瞬間、俺の手のひらから金属がせり出した。
骨が生えるみたいに形を変え、気づけばライフルになっている。
「……おおー」
正直、感心した。
(もう人間の範疇じゃねぇな、これ)
だが今さら文句は言えない。
『来たぞ』
廊下の奥から、ドローンらしき影。
同時に、天井と壁が割れ、自動機関銃の砲口が現れる。
次の瞬間、光線が降り注いだ。
「うおおおおっ!」
反射的に後退し、突き刺さった戦闘機の影に飛び込む。
熱で空気が歪むのが分かった。
『何やってんだ、マスター。早く倒せ』
「いやいや!
ろくに争いのない国から来た俺が、いきなり銃の乱射浴びて対処できるかよ!」
『仕方がない。使うぞ』
拒否権はなかった。
次の瞬間、俺の身体が勝手に動く。
視界が研ぎ澄まされ、引き金を引く感触だけが鮮明になる。
ドローンが弾け、砲台が沈黙していく。
「すご……」
『第二波が来る。次はマスターの番だ』
「えっ」
唐突に、身体の主導権が戻った。
「うおっ、ってぇ!」
銃撃が掠める。
焼けるような痛みはあるが、思ったほど致命的じゃない。
(……あれ? 耐えてる?)
「やってやらぁあああ!」
前へ。
とにかく前へ。
狙いは雑だ。
弾は当たったり外れたり。命中率は三割程度。
討ち漏らしたドローンは、ライフルで殴りつけて叩き落とす。
『まったく、雑な戦い方だな』
「ほっとけ! 俺にしてはよくやってるの!」
心臓がやたら速い。
怖い。でも止まれない。
進むにつれ、背後で重い音がした。
振り返ると、通路の扉が閉まっていく。
(……誘導されてるな、多分)
走り抜けた先は、広い空間だった。
「何だここ? 何のための空間なんだ?」
『訓練用のエリアだな』
即答だった。
その瞬間、入り口が閉じる。
部屋が暗転し、静寂が落ちる。
そして、一か所だけライトが灯った。
「よくここまで来たわね」
やたら演出かかった登場の仕方だ。
光に照らされて現れたのは、深紅の髪と青い瞳の軍服姿の女。
見た目はいい。
だが――
(中身は屑の屑女だ)
「てめーよく――」
「いくわよ、カグツチ。リンク!」
遮るような声。
いつの間にか明かりが戻り、赤い光が彼女を包む。
次の瞬間、赤を基調としたSF感満載の武装が展開された。
正直、見た目はカッコいい。
顔が分かるように設計されたバイザー。
背中には赤い翼。鎧の一部から見える肌。
……露出多くね?
戦闘に必要あるのか、それ。
「散りなさい!」
翼から何かが分離し、俺の周囲を包囲する。
「私の昇進のために散りなさい! 一斉砲火!」
「やべっ!」
光が迫る。
『リフレクト』
直撃――のはずだった。
だが光は弾かれ、分離ユニットが一斉に墜落する。
そして俺は、何事もなかったかのように立っていた。
「「えっ」」
正直、ワンキルされると思ってた。
『所詮は前時代の兵器、こんなもんか?』
「な、こ、この海賊がぁあああ!」
拳を振り上げ、突進してくる。
(……いや、俺は怒らせた覚えないんだが)
でもオビと一体化してる以上、俺が挑発した扱いか。
まあいい。
「おうよ! 海賊でいいよ!
かかってこいや! この屑女!」
拳を掴み、睨み合う。
「誰が屑女ですって? 燃え尽きなさい!」
掴んだ拳が燃え上がる。
「あつっ!」
「今よ! バーニングフィスト!」
燃え上がる拳が迫る。
だが身体が勝手に動いた。
避ける。
叩き込む。
鈍い音。
「……技名叫ぶのね」
「よくも……よくも私の顔を殴ったわね!」
「許してもらわなくて結構!
少しは憂さ晴れたぜ」
「底辺男が! 私の昇進の為に糧になれば良いのよ!」
「嫌なこったね!
こっちだってタダ殺られるつもりはねぇ!」
殴り合い、撃ち合い。
拮抗。
その時、部屋に別の声が響いた。
『セリアちゃん! ゴメン! 今から援護するね』
向こうのAIだ。
「遅いわよ! 何してたのよ!」
『システムに攻撃があったの。でも防げた。
向こうにも、私みたいなのがいる』
「そう。なら決着をつけるわ」
『ええ』
嫌な予感がした。
「オビ、ハッキング失敗したのか?」
『……』
沈黙。
「あいつは光線を跳ね返すわ。
アレで仕留める」
『……艦に影響が出る』
「構わない。アイツだけは殺る」
『了解。マテリアル構成開始。近接制圧用ユニットを展開します』
赤い光。
現れたのは、独立した二本の巨大な腕。
「喰らいなさい!」
女と連動するように動く二本の巨大な腕が、こちらへ伸びてくる。
迎撃がてらライフルを撃ちまくるが、まるで手応えがない。
弾かれた感触すらなく、装甲の表面を撫でただけのようだった。
「嘘だろ……効いてねぇ!」
スピードも落ちない。
あんなにデカいくせに、距離が一気に詰まる。
逃げようにも、背後の扉はすでに閉じている。
回避――無理だ。
腕がデカすぎる。
逃げ道ごと、塞いできやがる。
次の瞬間、開いた手のひらが視界いっぱいに広がった。
「――っ!」
逃げ場はなかった。
両側から包み込むように、
巨大な手のひらが俺を捕らえる。
そのまま、握り潰す。
「ぐっ……ぎぎ……!」
肺が、悲鳴を上げた。
骨が、軋む。
全身が万力に挟まれたみたいに、身動きが取れない。
(やばい……やばい……!)
息が、できねぇ。
視界の端が滲む。
頭の中が、ぐわんと揺れた。
このまま――
虫みたいに、潰される。
(……こんな所で? こんな屑女に?)
第二の人生だぞ。
まだ、何もしてねぇだろ……!
「アハハハっ!」
セリアの、楽しそうな笑い声が響く。
「よく頑張ったわ。私と拮抗できたんだから」
拮抗?
冗談じゃねぇ。
完全に、詰みじゃねぇか。
「でも、もうここまでよ」
彼女は、俺を見下ろして続ける。
「私の炎に包まれながら、握り潰してあげる。感謝してよね」
――感謝?
何をだ。
殺されることか?
「フレイム・エンブレイス!」
その声と同時に、
巨大な腕が、赤く燃え上がった。
「――っ!!」
声にならない。
熱い。
いや、熱いなんて言葉じゃ足りない。
骨の奥から、焼かれる感覚。
皮膚が悲鳴を上げ、内側から力が抜けていく。
(やめろ……! まだだ……! まだ死ぬわけには――)
「しぶといわね」
セリアが、苛立ったように吐き捨てる。
「出力全開よ。このまま焼き潰されなさい!」
圧が、さらに強くなる。
視界が白く飛び、意識が遠のきかけた――
その時だった。
『……なかなか面白い余興だったぞ』
静かで、どこか楽しげな声。
オビだった。
戦闘書くの難しいですな。




