表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

007 この世界、やっぱ嫌いだわ

『止まりなさい。さもなければ撃つわ』

 二度目の警告。

……いや、普通に撃つ気だろそれ。


「オビ、通信できるのか。できるなら繋げてくれ」

『仕方がない。接続するぞ』


 操縦席前方の虚空に、淡く光る矩形が浮かび上がった。


 ノイズ混じりの映像が収束し、一人の女の姿を結ぶ。


『早く応答しなさいよね。わたしは銀河治安連合軍。反海賊特務部隊アストレイア所属、セリア・エーデル・ヴァルツ=クロイツ少佐よ。あんたは差し詰め、脱走兵ってことかしら?』


 中々の美女だった。


 深紅の髪は整えられ、姿勢に一切の無駄がない。

 

 アクアマリンのような色をした瞳に、思わず意識を引き込まれる。


……てか今、組織名出たよな。


 銀河治安連合軍。


 もしかして、だ。


 海賊の奴隷だった俺を、ちゃんとした'人'として扱ってくれるんじゃないか。


やっと、俺にも運が回ってきたかもしれない。


「あのー、セリア何とかさん。俺、ゴブリンたちに捕まって約一年間、奴隷として働かされてました。今日たまたまあの戦闘が始まり、隙をついて逃げ出したんです。お願いです。助けてください」


とにかく、下手に出た。


この場ではそれが一番安全な選択肢のはずだった。


『そうなんですね。それは大変な目に遭いましたね。わかりました、これからあなたを保護します』


胸の奥が、少しだけ緩む。


その直後だった。


モニターの端に、赤い球体がふわりと浮かび上がる。

オビに似た形状だが、光の質がまるで違う。


今の、こいつが喋ったのか。


どっかのAIと違って、ずいぶん物腰が柔らかい。

いい奴そうじゃん、キミ。


『待ちなさい、カグツチ』


『どうしたの、セリアちゃん』


『わざわざそんな事しなくていいわ』


『え……』


空気が、目に見えない形で変わった気がした。


『だって手間じゃない? 保護したコイツの手続きに手間かかるし、ここで海賊として処分した方が楽よ。昇進のための点数にもなるし一石二鳥だわ』


……は?


なに言ってんだ、この人。


『でもセリアちゃん。いまもログを記録してるし、そんなことは出来ないよ』


『じゃそれは改竄して、さあやるわよ』


ぞっとした。


言葉の軽さが、命の重さを完全に踏み潰している。


職務怠慢。


いや、それ以前の問題だ。


俺に冤罪を着せて、最初から消す気か。


『じゃーね♪ 海賊君』


通信が一方的に切断される。


次の瞬間、空間が歪んだ。


戦艦から放たれた砲撃が、光の奔流となってこちらへ迫る。


本気だ。


こっちを殺しに来ている。


「!!」


『回避行動』


オビの声と同時に、機体が叩き落とされるように急旋回する。


警告音が重なり、視界の端で警戒表示が明滅する。


紙一重で、砲撃が背後をかすめた。


『マスター、どうする?』


その問いに、これまでの記憶が一気に押し寄せる。


召喚に浮かれていた日。

宇宙から現れたゴブリン。

一方的な侵略。

奴隷として過ごした一年。

理不尽な扱い。

男色のダヴィに狙われ続けた日々。


オビを手に入れて、脱出できて、

ようやく「運が向いてきた」と思った。


この世界も、案外悪くないのかもしれないと。


……前言撤回だ。


この世界、やっぱ嫌いだわ。


俺に優しくない世界。

正義も理屈も、俺を守っちゃくれない。

ならもういい。


好きに生きる。


手始めに――

俺を冤罪で消そうとした、あの女からだ。


「なぁオビ。俺に冤罪を押してつけようとする、あの女に目にもの食らわせたい。できるか?」


『余裕に決まってるだろ』


即答だった。


「流石だな。お前、超優秀」


柄にもなく、素直に口にする。


「ふふふ……こっちだってなぁ、黙って殺られるつもりはないからな。思い知らせてやる!」


『そうか。では突貫するぞ』


「えっ」


いやいや待て。


突貫って、あの突撃するやつだよな?

急すぎないか?


『仕方ないだろ。マスターは目にものを見せたいと言った。なら手段は一つ。突撃、侵入、内部制圧だ』


淡々と告げながら、オビは機体出力を引き上げる。


背中から床へ、重力が叩きつけられる。


視界が一瞬、白く弾けた。


「って言っても、この機体で突撃できるのかよ」


『任せろ。あと数秒でシールドを貫き、艦隊に取り付くぞ。いいな?』


「お、おう……」


コクピット越しに見える宇宙が、黒い何かに包まれていく。

それは闇というより、影だった。


■■■


――カグツチ艦・ブリッジ


『攻撃回避されました。次弾準備、攻撃します』


「オッケー。まさか不意討ち気味の攻撃を避けられるとはね。まぁ運が良かっただけでしょ。次で仕留めましょ」


『攻撃……回避されました。状況確認。向こう突撃するつもりです。まっすぐこちらに来ます』


「あら。あのオンボロ機体じゃ、それが最善手かもね。こっちは最新技術の塊なのよ。オートシールドで粉々になりなさい」


戦艦カグツチの外装に、淡い光が走る。


多層展開された防御フィールドが、艦体を包み込む。


だが。


黒い何かが、戦闘機の輪郭を歪めた。


影を纏ったそれは、躊躇なくシールドへ突っ込んでくる。


『! シールドを突破されました。艦に敵機体が接触します。衝撃に備えてください』


「嘘でしょ……あんなオンボロで、最新型のあなたのシールドを?」


艦全体が、殴られたように震えた。


『艦に取り憑かれました。Bブロックに侵入。艦内迎撃システム作動』


「仕方ないわ」


セリアは静かに立ち上がる。


「ワタシが直接葬ってあげる。模擬演習エリアに誘導して、そこで迎撃するわ」


『了解。気をつけてね、セリアちゃん。相手は未知の敵よ』


「大丈夫よ」


赤い髪を揺らしながら、彼女は微笑む。


「私、エリートですから」


そう言って、迎撃へ向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ