005 替えはいくらでもいる
ブリッジの片隅で、通信端末が短く鳴った。
「……ボス」
玉座に腰掛けたゴブリン海賊団のボスは、視線だけで続きを促す。
「鉱区の監視から連絡です。奴隷鉱夫が一人、行方不明になりました」
ボスは興味なさげに鼻を鳴らした。
「どうせ穴のどっかに隠れてるか、死んでるだけだ。こんな場所で逃げ出せると思ってるなら、頭がおかしい」
玉座に深く腰を沈め、吐き捨てる。
「一人減ったところで掘る量は変わらん。替えはいくらでもいる」
部下はそれ以上、何も言わなかった。
その直後だった。
惑星周回軌道に配置された監視ビーコンが、低い警告音を鳴らした。
「艦影確認。識別信号……オークです」
ブリッジがざわつく。
「……オークだと?」
「この宙域に?」
ボスはモニターを一瞥して、短く舌打ちした。
「挨拶もなしに来やがるとはな」
最近、この宙域でゴブリン海賊団の羽振りがいいことは、周辺の連中なら誰でも知っている。
質のいい鉱石が出る惑星を拠点にしている――そんな噂も込みで。
だから、嗅ぎつけてくるのは時間の問題だった。
「通信を繋げ」
操作音とともに、ノイズ混じりの映像が立ち上がる。
画面に映ったのは、分厚い装甲に身を包んだオークの艦長だった。
『……誰だ。ここは通り道だろう』
ボスは答えない。
代わりに、ブリッジの武装表示が一斉に点灯した。
砲門が開き、照準が収束する。
その一連の動作を、通信越しに見せつける。
オークの艦長が、画面越しに牙を剥いた。
『なるほどな。そういう態度か。だったら話は簡単だ――てめぇらぶっ殺して、奪うまでだ』
ブリッジが静まり返る。
ボスは、わずかに口角を上げただけだった。
「……いい度胸だ」
それ以上は言わない。
言葉はもう、必要なかった。
通信が繋がったまま、互いの艦がゆっくりと進路を修正する。
距離が詰まり、武装が完全に向けられる。
「ボス、相手――砲門展開」
「分かってる」
短く返す。
「向こうも、分かって来てる」
次の瞬間、オーク艦の砲門がはっきりと光を帯びた。
「――来るぞ」
閃光が走る。
轟音はない。
だが、衝撃が確かに船体を揺らした。
「被弾!」
「シールド低下!」
警告音がブリッジに響く。
ボスは、ようやく玉座から立ち上がった。
「……撃ち返せ」
怒鳴らない。
ためらいもない。
「好きにやれ。資源を狙ってきたなら――」
モニター越しに、オーク艦を睨み据える。
「骨の一本も残すな」
次の瞬間、ゴブリン艦隊の砲門が一斉に火を吹いた。
光が交差し、宙域が揺れる。
こうして、長く拠点として使われてきた惑星の周回軌道は、戦場へと変わった。
■■■
オークとゴブリンの艦影が、惑星周回軌道で正面から噛み合った。
ステルスを張った艦の内部で、女は腕を組み、余裕の表情で戦況を眺めている。
砲門展開、照準収束、初弾――すべて想定どおりの速度だった。
「はいはい、最近羽振りがいいゴブリンに資源狙いで喧嘩を売りに来たオーク、互いに最低限の事情は分かってるから引かないし、結果は潰し合い……分かりやすすぎでしょ」
傍受回線には怒号と警告音が流れ込み、次の瞬間、両陣営の砲撃が交差する。
女は航宙図を拡大し、光点が乱れるのを確認した。
重力圏の縁での戦闘は後処理が面倒だが、今は問題にするほどでもない。
「場所は面倒だけど展開は最高ね、このまま削り 合ってくれれば捕獲も撃墜も選び放題だし、あなたたち全員まとめて私のエリートとしての生贄になりなさい」
指先が軽やかに動き、交戦中の艦影すべてにマーカーが打たれる。
砲撃の余波が惑星側へ広がっていくが、女は一瞥しただけで興味を失った。
自分が失敗する可能性は、最初から考慮の外だ。
推進出力を、わずかに引き上げる。
まだ出ない。
すべてが、思惑どおりに進んでいる。




