表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

004 喋る球体に名前を付けたら人生が動き出した

「……えっ、名前?」

『そうだ。私の名前をつけてくれ』

 色々と、理解が追いつかない。

 さっきまでゴミ扱いされていた黒い球体が、

 急に喋り出したかと思えば、今度は名前を要求してくる。

 しかも、やけに当然のように。

「……待て待て。

 お前、一体なんなんだよ」

 視線を落とすと、

 さっき俺が指を突っ込んだ穴が、淡く点滅している。

 規則的に。

 まるで、呼吸するみたいに。

『私は補助AIだ』

「……は?」

『正確には、

 役立たずを育てるために、未来から送り込まれた戦術補助AIだ』

 ……なんて?

『無能で、特別な力もなく、無難に存在感を消して生き延びることだけを選んできた個体』

 淡々と、容赦なく。

『――つまり、マスターのような人間を支えるための存在だ』


「言い方ってもんがあるだろうが!」


 思わず、口が出た。

 否定したいが、否定しきれないのが腹立たしい。

「んで、名前、付けなきゃいけないのか?」

『おう。もし思いつかなかったら、オービタルと呼んでくれ』

 この時思った。コイツはオービタルと名付けて欲しいのではないかと感じた、だからーー

「……んじゃ、オビな」

『!?』

「ふははは! さっきのお返しだ!

 マスターの名付けだからな、変えることは出来ない!」

『っ……くっ。

 仕方がない。オビと呼んでくれ』

 何となく、悔しそうだ。

 人様を無能扱いした罰だと思えば、まあいいだろう。

 しかし――補助AI、ねぇ。

 一体、何ができるんだ。

「なぁオビ。結局、お前は何ができるんだ?

 指摘された通り、俺は残念個体だしさ。

 そんな俺を、本当に助けてくれるわけ?」

『ああ。そうだな』

 一拍置いて。

『状況から判断するに――

 奴隷落ちした崖っぷちの男が、

 どうやってここから抜け出そうか、

 ヤケクソ気味に足掻いているところだ』

「……見てたのか?」

『見てはいない。

 だが、観測する必要もない程度には、分かりやすい』

「見てるのと変わらねぇだろ、それ」

『マスターは、このまま奴隷として一生を終えたいのか?』

「嫌に決まってるだろ! しかもこのままじゃ……ダヴィに尊厳を奪われる! 俺は、ここから逃げ出したい!」

 言ってから気づいた。

 本音が、そのまま口から零れていた。

『了解だ』

 返事は、やけにあっさりだった。

『ここから逃げ出すには、まず肉体改造が必要だ。 ……というか、なぜマスターは肉体改造をしていない? 普通、しているだろう』

「何だよそれ。いまさら筋トレしろとか言うなよ?」

 思わず反発する。

「宇宙人ども、根本的に身体が違うだろ。

 俺みたいな人間が、いくら鍛えたって勝てるわけない」

『何を言っている』

 オビは、淡々と否定した。

『それは当然だ。基本的に未開拓惑星以外の人間は、生まれた時点で改造を施す』

「……は?」

『宇宙で暮らす以上、身体基礎能力の上昇と延命処理は必須だからな』

「な、なんじゃそりゃ……!」

 頭が追いつかない。

「だからあいつら、あんなに強いのか!?

 じゃあ俺も……改造したら、強くなれるのか?」

『そうだ』

 一切の迷いなく、肯定。

『ああ、なるほど。

 マスターは未開拓惑星出身か』

 一拍置いて。

『では、どうする? 改造を実行するか?』

「……」

 考える暇なんて、なかった。

「よし、頼む!」

 反射で返事をしていた。

『了解だ。 では早速――痛いが、我慢しろよ』

「えっ、痛いのか?ちょ、待て……!」

 言い終わる前に、異変が起きた。

 黒い球体――オビの形状が、ゆっくりと変化する。

 分解され、再構築され、リング状になる。

 そのリングの内側には、

 薄く、半透明の膜が張られていた。

「おい、何だそれ……!」

 次の瞬間。

 リングが、俺の頭上から静かに落ちてくる。

 上から下へ――なぞるように。

 膜が、肌に触れた。

「――っ!」

 締め付けられる。

 痛い。

 想像していたより、ずっと。

 一瞬、全身を包む薄膜が、

 まるで全身タイツのように俺を覆った。

「ぐっ……!」

 だが、それはすぐに消えた。

 身体中が、痛い。

 いや、それだけじゃない。頭まで、ズキズキと重い。

「……これで終わりか? 俺、強くなったのか?」

『強くはなった。が、まだ一割程度だな』

「はぁ!? 一割しか終わってないのかよ!

 早く全部終わらせてくれ!」

『仕方がないだろう』

 オビは、さも当然のように言った。

『肉体改造は、徐々に基礎を引き上げていくものだ。

 一気にやれば、マスターの穴という穴から血が噴き出す』

「……」

『それでも良いなら、実行するが?』

「すいません。

 徐々でお願いします」

 即答だった。

「でもさ……本当にこれ、強くなってるのか?

 正直、何も変わった気がしないんだが」

『ふむ』

 一拍置いて。

『なら、試しに―― そこの岩を殴ってみろ』

「……は?」

「え、岩? 殴るの? 痛くないよな?」

『いいから殴れ』

「雑だなぁ……」

 だが、言われた通りにするしかない。

「……あーもう」

 どうせなら、思い切りだ。

 半端にやって、失敗するのが一番ダサい。

 俺は拳を握りしめ、

 目の前の岩に向かって――殴った。

 ドンッ。

 鈍い音。

 次の瞬間。

 岩は、俺の拳の跡を中心に、

 全体へとひび割れていった。

「……え?」

 拳を見る。

 痛みは、ない。

「……マジかよ」

『これで、まだ一割だ』

 オビが、淡々と告げる。

『残り――』

「……あれ?」

 急に、視界がぐらりと揺れた。

「……目眩、が……」

 そこで、意識が途切れた。

 ――――

『脳にも、私の知識を一部刷り込んだ』

 倒れた悠真を見下ろしながら、オビは続ける。

『流石に、身体への負荷が大きかったか。

 まあ、仕方がない』

 一瞬、球体が静止する。

『起きるまで、待つとしよう』

 次の瞬間、オビの形状が変化した。

 周囲の岩壁と同化するように色と質感を変え、

 倒れた悠真を包み込む。

 外から見れば、

 そこに人が倒れているとは分からない。

 ――完全な擬態。

『敵対存在、接近なし。

 安全を確保』

 静かな鉱山に、再び沈黙が戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ