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003 人って追い込まれると何するかわからないよね

 あれから一年――

 いや、正確には「死んでから」一年、だ。

 俺、橘悠真はエナジードリンクの過剰摂取という、どう考えても擁護しようのないダサい死に方をした。

 過労死でもなければ、事件性もない。

 ただの自己管理ミス。人生の最終ログとしては、あまりにも締まらない。

 そしてなぜか、女神を名乗る存在に拾われ、異世界転生というテンプレ展開を提示された。

 剣と魔法。

 勇者。

 魔王。

 ハーレム。

 ――考えましたとも。

 魔王を倒してチヤホヤされて、成り上がる未来。

 だが、現実は残酷だった。

 転生先はファンタジーとは程遠い、SF感溢れるゴブリンどもが支配する宇宙文明社会。

 しかも初手から、捕獲。

 職業、奴隷。

 そして現在。

 俺はとある辺境惑星の鉱山で、奴隷鉱夫としてツルハシを振るっている。

「勇者プレイ? ははは……そんなこともあったな……」

 初手から奴隷落ち。

 某ゲームの主人公みたいな展開だが、違う点がひとつある。

 励まし合う仲間も、

 支え合う友も、

 希望を語り合う相棒も、いない。

 あるのは、体力と時間と精神を奪われ続ける日々だけだった。

 この一年、俺は反抗もしなければ、目立ちもしなかった。

 生き残るために、ただ無害でいることを選び続けた。


 その結果――

 最悪の方向に、目をつけられていた。

「ユーマ……次はお前だぁ。

 もうすぐ、お前を俺のものにしてやるからなぁ」

 背後から聞こえる粘ついた声に、胃の奥がひっくり返る。

 奴隷たちのボス、ダヴィ。

 力と暴力を盾に、この鉱山を支配する男。


 そしてこいつは、男色だ。


 しかも節操がない。

 抵抗できない奴隷たちの尊厳という尊厳を、力でねじ伏せてきたヤバいやつ。

 なぜか目立たず生き延びてきた俺を、

 今になって「都合のいい獲物」として認識し始めたらしい。


 ――冗談じゃない。

 ここは異世界。

 法律も、救いも、味方もない。

 逃げ続けてきたツケが、

 今になって、まとめて請求されようとしていた。

 人生最大のピンチだった。


■■■


 現実逃避するかのように、俺はひたすらツルハシを振るっていた。


 ヤバい。


 ヤバいヤバいヤバい。どうしよう。

 逃げる?

 どこへ?

 別の星?

 ――無理だろ。


 この惑星から出る術も、金も、身分もない。

 奴隷が宇宙船に乗れるわけがない。


 このままじゃ、ダヴィの“ハーレム”入りだ。

 想像しただけで、背筋がぞわりと粟立つ。

 嫌だ。

 そんなの、絶対に嫌だ。

 カン、カン、カン――

 ツルハシが岩を叩く音が、次第に甲高く、速くなっていく。


 考えろ。

 どうすればいい。

 どうすれば、逃げられる。

 だが、答えは出ない。

 浮かぶのは最悪の未来ばかりだ。

 だから、考えるのをやめるように、

 俺は一心不乱で腕を振り続けた。


 カン――

 ゴキッ。


「……ん?」

 今までとは明らかに違う感触が、手に伝わった。

 岩でも鉱石でもない。

 硬すぎる。異様なまでに、硬い。

 俺は思わず、ツルハシを止めた。

 何かに、当たった。


 岩壁の奥に見えたのは、周囲の石とは明らかに異なる色をした、黒い物体だった。

「……なんだ、これ?」

 鉱石にしては妙に黒い。

 それに、光をほとんど反射しない。まるで闇を塗り固めたような色だ。

 とりあえず、掘り出すか。

 ツルハシで周囲の岩を削り、慎重に掘り進める。

 やがて姿を現したのは――黒い球体だった。

「……いや、ないだろ」

 自然に、こんなに綺麗な球体ができるわけがない。

 継ぎ目も凹凸もなく、どう見ても人工物だ。

 鉱石じゃない。

 だが、機械……?

「取り敢えず、報告するか……」

 もしかしたらレアなやつかもしれない。

 そうなれば、ご褒美が出る可能性もあるし、

 運が良ければ、この状況から抜け出すきっかけになるかもしれない。

 逃げられるなら、立場なんてどうでもいい。

 ――今よりマシだ。

 監督役のゴブリンに球体を差し出すと、

 そいつは腰から取り出した小型の機械を球体にかざした。

 しばらく無言。

 角度を変え、もう一度スキャン。

「……データにないな」

 不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「ゴミだ。てめえで処分しろ」

 そう言って、球体を俺に向かって放り投げた。

「――っ」

 胸に鈍い衝撃が走る。

 軽くはないが、見た目ほど重くもない。

 結局、希望は一瞬で潰えた。

 俺は球体を抱え、誰もいない廃棄所へ向かう。

 捨てる前に、改めてそれを眺めた。

「……穴?」

 表面に、ボウリング玉みたいな穴がいくつか空いている。

 指を掛けるのに、ちょうどよさそうな位置だ。

「……ちょうどいい」

 どうせ捨てる前だ。

 この玉使って、ボーリングでもしてやるか。

 八つ当たりでもいい。

 このやり場のない気持ちを、どこかにぶつけたかった。

 俺は球体を持ち上げ、

 投げやすいように、その穴に指を掛けた――

「――いてっ!」

 鋭い痛みが、指先を走る。

 思わず手を引っ込めた。

 針か?

 刃か?

 次の瞬間。

『……血液採取。データ登録』

「……は?」

 今、確かに聞こえた。

 球体から――声がした。

『……登録完了。再起動します』

 無機質で、感情のない音声。

 俺は、投げることもできず、

 その場に立ち尽くしていた。

 ――これは、本当にゴミなのか。

『……再起動、完了』

 無機質な声が、もう一度響いた。

 頭の中か、耳元か、それすら判別できない。

「……幻聴か?」

 あまりにも都合が悪すぎる。

 追い詰められすぎて、ついにおかしくなったのかもしれない。

『否定します。音声出力、正常。意識疎通、可能です』

「……え?」

 思わず声が漏れた。

 周囲を見回すが、廃棄所には俺しかいない。

 視線を落とすと

 さっきまでゴミ扱いされていた黒い球体が、静かに転がっていた。

『確認事項があります』

「……いや、ちょっと待て」

『マスター認証は完了しています。

 次の工程へ移行可能です』

「マスター……?」

 意味が分からない。

 頭が追いつかない。

 すると、球体から――

 少しだけ、調子の変わった声がした。


『おい、マスター。

 俺の名前、つけてくれよ』


「……へっ」

 一瞬、間抜けな声が出た。

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