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015 クレア・ノクティス=レイヴンハート

翌朝。


俺たちは第七ドックへと足を踏み入れた。


巨大なシャッターを抜けた瞬間、視界が一気に開ける。


高い天井。

むき出しの鉄骨。

遠くで火花が散り、低く唸るような機械音が絶えず響いている。


広い。


俺たちの艦――マガツ以外にも、すでに複数の艦が停泊していた。


黒鉄色の装甲。

角張った無骨なシルエット。

武装を外付けした、いかにも実戦仕様の艦影。


「……あんま変わらんな」


マガツと並べても、大差ない。


『ダストールのハンター艦は機能優先だ。設計思想が似通うのは当然だろう』


オビが淡々と告げる。


どうやらマガツの外観も、この辺りの艦を参考に再構成したらしい。


ドック中央には、今回護衛する交易船が停泊していた。


船腹が大きく開き、まだ荷物の搬入が続いている。

コンテナがクレーンで吊られ、規則的に運ばれていく。


その足元で動いているのは――


人より一回り大きい鋼鉄の人影。


無骨な腕で貨物を抱え、軽々と運搬している。

関節が駆動するたび、重たい金属音が響いた。


「なぁ、あれロボットだよな?」


『旧世代の産物だ』


オビがどこか見下したように言う。


「何言ってるのよアンタたち。あれはSMF。機人よ」


セリアが呆れたように肩をすくめる。


「みんなあれに乗って戦闘やら荷下ろしやら、色々するの。ハンターなら珍しくもないわ」


「へー……スゲーな」


思わず見入る。


パワードスーツとロボットの中間のような体躯。

分厚い装甲。

無駄のない動き。


俺の元いた世界は、ただの現代日本だ。


宇宙戦艦もなければ、実戦用の機人もない。

ロボットは映像や娯楽の中の存在で、

せいぜい工事現場の補助スーツが話題になる程度だった。


目の前で鋼鉄の巨体が荷物を軽々と運ぶ光景は、

どう考えても日常の延長線上にはない。


「ワクワクするな……」


実際に乗れて、戦えて、使える。


浪漫ってやつだろ、これは。


「あんたの世界なんて大したことないのね」


セリアがニヤニヤする。


「ほっとけ」


文明マウントですか。


正直――これは羨ましい。


『集合場所はあそこみたいですね』


赤い球体――カグツチがふわりと浮かび上がる。


艶のある深紅の外殻がドックの照明を反射し、細い光のラインが静かに脈動している。


無骨な金属の空間の中で、その赤だけが妙に映えた。


カグツチはくるりと回転し、交易船の前方へと滑るように進む。


俺たちは、その後を追った。


――初仕事。


さて、どんなもんかね。


■■■


集合場所に集まった俺たちは、交易船内のミーティングルームへと案内された。


重い自動扉が開く。


中に入った瞬間、空気が変わった。


部屋を見回す。


人相の悪そうな男。

無精髭に古傷だらけの傭兵風の連中。

重装備を着込んだ無口そうな女。


中には獣人らしき耳の立った種族や、

湿った皮膚をしたカエルのような人種までいる。


――いかにも荒事専門です、って面子だ。


その視線が一斉にこちらへ向く。


新人は目立つ。


そして。


壇上には――紅一点。


緑髪の女が立っていた。


肩までの髪が揺れ、

黄色い瞳が鋭く光る。


猫のような眼差し。


ただ立っているだけで、 場の空気を掌握しているのが分かる。


「今回の護衛でリーダーをやらせてもらう、クレア・ノクティス=レイヴンハートよ。よろしくね」


よく通る声。


抑揚は穏やかだが、迷いがない。


クレアは部屋全体を見渡しながら続ける。


「今回の護衛はダストールから中継ステーションまで。護衛艦は四機」


壁面スクリーンに航路図が投影される。


「交易船を中心にスクエアフォーメーションで護衛するわ。距離は常時一定。無駄な突出は禁止」


淡々としているが、的確だ。


「襲撃があるなら途中のデブリ帯。視界もセンサーも乱れる。連中にとっては格好の狩り場よ」


部屋の空気がわずかに引き締まる。


「デブリ帯に入ったら各自警戒。判断は迅速に。指示系統は私を通して。勝手な英雄行為はしないでね?」


軽く微笑む。


だが目は笑っていない。


おおー……


できる女オーラが出てる気がするこの人。


顔も美人。

リーダー。

説明も明確。


頼れそう。


しっかりしてそうだし。


不正なんてしなさそうだ。


誰かと違って。


チラッと横目でお隣さんを見る。


「なによ」


「別にー」


セリアがじとっと睨んでくる。


……うん、やっぱ比較対象が悪い。


■■■


ミーティングが終わり、各自持ち場へ戻るため部屋を出る。


廊下に出たところで、後ろから声がかかった。


「あなたたちがグリムの言っていた新人さんね?」


振り向く。


そこに立っていたのは、さっき壇上にいた緑髪の女――クレア・ノクティス=レイヴンハート。


近くで見ると、黄色い瞳がより鋭く見える。

猫のように細められた視線が、こちらを値踏みしていた。


「まさかね。本当に“あの”セリアが賞金首になるとは思わなかったわ」


どこか楽しそうに言う。


「え、セリアって有名人なの?」


俺は隣の本人を見る。


「知らないわよ。まぁ悪い奴らには名前くらい覚えられてるかもしれないわね。取り締まる側だったし」


過去形、ね。


クレアが軽く肩をすくめる。


「有名人よ。しょっ引いた賞金首も多かったからね。腕は確かだったわ」


一拍置く。


「ただ……やってもいない人に罪を着せることもあったけど」


視線がゆっくりセリアに向く。


「お前、俺以外にも冤罪を……」


「う、うるさいわね。だって仕方ないじゃない。怪しい奴が悪いのよ」


理屈が雑すぎる。


「ちなみに私は後者」


クレアがさらっと言う。


……ここにも被害者がいた。


失礼だとは思うが、どこか影があるというか、少し幸が薄そうな雰囲気がある。


「キミ、今なにか失礼なこと思ってない?」


鋭い。


「いえ、別に。影のある綺麗な女性だなとしか」


「それ、褒めてる? 貶してる?」


くすっと笑う。


怒っていない。余裕だ。


「しかし酔狂だね。セリアと組んでるなんて。絶対トラブルに巻き込まれるわよ、今後」


横でセリアがぴくりと反応する。


「さっきから聞いてたらアンタたち喧嘩売ってるの? 買うわよ、その喧嘩」


一歩前に出る。


早い。


クレアは軽く両手を上げた。


「仕事前よ。フレンドリーファイアはごめんだわ。今日は味方なんだから」


“今日は”。


その言い方が少し引っかかる。


「デブリ帯で遅れないでね、新人くん」


くるりと踵を返す。


緑の髪が揺れ、廊下の向こうへ消えていった。


「気に入らないわね、あの女」


「お前が言うな」


初仕事前から、前途多難な気しかしない

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