011 まさかの指名手配
「な、な、な、なによ……アレ……」
セリアの声は、かすれていた。
ブリッジのモニター越しに、俺たちは“それ”を見ていた。
最初は、ただの小さな爆発だった。
戦闘宙域の一点で、ありふれた閃光が弾けただけ。
――そのはずだった。
だが、爆発は終わらなかった。
一つが、二つに。
二つが、四つに。
呼吸するように、爆発が増えていく。
光は波ではなく、面となり、
やがて戦闘宙域そのものを塗り潰していった。
「……嘘でしょ」
セリアが呆然と呟く。
全速で離脱していたはずの艦。
逃げ切れるはずだった船影。
それらが、見えない何かに引き留められたかのように、次々と爆発の中へ沈んでいく。
逃げ場は、なかった。
いや――
最初から、用意されていなかったのだ。
戦闘宙域を埋め尽くす閃光の向こうで、海賊たちは、抵抗することすら許されずに消えていった。
『戦闘宙域内、生命反応消失。作戦完了だ』
オビが、淡々と告げる。
隣を見ると、セリアは完全に言葉を失っていた。
――ああ、こういう顔をするんだな。
この世界で生きてきた人間は。
……うん。
正直に言おう。
ちょっと、やりすぎた。
「今後、使用禁止な」
『注文通り、ド派手にしたが』
「まぁ、そうなんだが」
他人事みたいに考えてしまう自分に気づいて、少し怖くなる。
改めて思う。
――こいつ、マジでヤバい。
使い方を間違えたら、どうなるか分からん。
そんなことを考えていると――
「あんたたち、何者よ!?」
セリアが、ようやく正気を取り戻したらしい。
反射的に答えてしまった。
「え? 転生したはいいけどゴブリンに捕まって、
奴隷落ちした勇者予定だった別世界の人間。
簡単に言うと、異世界人だな」
『役立たずを育てるため、未来から来た戦術補助AIだ』
「……???」
セリアの眉が、限界まで寄る。
「転生? 未来? 何を言ってるのよ、あんたたち! どう考えても敵国のスパイでしょ!」
「本当のことなんだけどな」
『仕方ない。私もマスターに転生とか言われても意味不明だ』
「まぁ、そうだわな」
「ちょっと! 私を無視しないで!」
さて、これからどうするか。
オビが言っていた予定地へ向かうか――
そう思った瞬間。
ビーッ、ビーッ。
『通信が入った。恐らく、その女の仲間だ』
「……っ!」
セリアの口元が、歪む。
「ふふふ……これで、あんたたちはおしまいよ!
逆転だわ!」
鎖でぐるぐる巻きの状態で、よく言う。
『とりあえず、繋ぐ』
モニターが切り替わり、軍服を着た、年相応の穏やかそうな男が映し出された。
『こちら第七機動艦隊司令、レオン・ヴァルツァー少将。 セリア・エーデル・ヴァルツ=クロイツ少佐、応答せよ』
……さて、どうする。
事情を話す?
いや、消される可能性もある。
それに、この艦を乗っ取ったのは事実だ。
「なぁオビ。向こうに、俺たち見えてる?」
『いや。受信のみだ』
「……もう少し考えるか」
『撃墜も可能だが』
「物騒な提案すんな」
「少将! 助けてください!」
セリアが必死に叫ぶ。
だが、声は届かない。
そして――
事態は、向こうの都合で進み始めた。
『……応答がない。
つまり、説明する意思はないということだな』
おっと。
勝手に話が転がり始めた。
『先の二勢力の海賊戦闘、および発生した大規模爆発。 最も近くにいた少佐から事情を聞く予定だったが』
……声、ちょっと怒ってない?
『そもそも少佐は、命令なく独断でターゲットを追跡している』
「え。あんた、勝手に動いてたの?」
「仕方ないじゃない! 功績が欲しかったのよ!」
……エリートとは。
『命令違反。行動規範逸脱。
未承認兵装使用の疑い』
「……あっ」
『いずれにせよ、軍法会議行きだ』
「そ、そんな……」
『よって、これより身柄を確保し、第七機動艦隊にて連行する』
セリアの顔が、真っ青になる。
「ま、まずい……このままじゃ、私……」
モニターには、迫りくる艦隊。
このまま居座れば、俺もまとめて詰む。
「……よし」
決めた。
「逃げるぞ」
『了解。急旋回。宙域離脱。マテリアル粒子散布』
視界が一気に流れ、艦が跳ねる。
『少佐! その行動は敵対行動だ!』
砲撃。
だが、当たらない。
「な、何してくれたのよ!? このままじゃ、私……!」
『――少佐を、敵対行動の疑いで指名手配とする』
「……え?」
「あーあ。指名手配されちゃったな」
「どうしてくれるのよ!
あたしのエリートコースを!」
「自業自得だろ。 俺に冤罪ふっかけようとしたんだから」
「きぃぃぃーー!!」
「ザマァ」
胸の奥に溜まっていたものが、ようやく抜けた気がした。 いやもう、スッキリだ。
それにしても――
指名手配まで、ずいぶんトントン拍子だったな。
艦隊を振り切り、俺たちは星の海へと逃げ出した。
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