010 ド派手なのが希望
返事をしたオビは、床からせり上がった台座の中心――
まるで最初からそこに座るために用意されていたかのようなくぼみに、静かに身を置いた。
『マテリアルコアに接続。マテリアル構成、開始』
……専門用語が飛び出した。
意味はさっぱり分からないが、少なくともろくでもないことが始まったのは確かだ。
正面のモニターが切り替わる。
立体投影されたのは、この艦そのものだろう。
赤を基調とした艦体の表面に、黒い線が一本、また一本と刻まれていく。
装甲の継ぎ目でも、配線でもない。
意図的に引かれている“何か”だった。
「ん!? んー! んー!」
……何ですか。トイレですか。
我慢しなさい。
背後で、何かを必死に訴えようとする気配。
セリアだ。
仕方ない。
俺は席を立ち、彼女の口を塞いでいたテープを、ぴっと剥がした。
「いたっ! もっと優しく剥がしなさいよね!」
言い終わる前に、再びテープを貼り直す。
「ん! ん! んーー!!」
激しく身をよじるセリア。
……仕方ない。今度はゆっくり、慎重に剥がす。
「どうした? トイレか?」
「はっ!? 違うわよ! てか何してるのアイツ! あの黒いの!!」
セリアの視線は、台座に鎮座するオビに釘付けだった。
「何って……攻撃の準備じゃね? あの海賊どもをまとめて吹き飛ばすために、艦の最大火力でド派手にやれって指示したしな」
その瞬間、セリアの顔から血の気が引いた。
「……主砲を撃つつもりなの!?
本部の許可なく発射したら、軍法会議ものよ…… 降格…… 最悪、拘束……」
震える声。
……ほほう。
人を嵌めようとした女が、今度は自分の立場を心配している。
最高の展開じゃないか。
「よし、オビ。主砲ぶっ放せ」
「やめなさい!! お願い、やめて! お願いしますから!!」
必死な懇願。
だが――
『主砲など、撃たん』
「「……え?」」
オビの声は、相変わらず淡々としていた。
『マスター、言っただろう。 “ド派手なのが希望”だとな。少し待っていろ』
モニターの表示が次々と切り替わる。
『艦の再構成、完了。
カラミティバースト発動準備に移行』
「……なによ、それ。
カラミティバーストって」
「え? 知らんの?」
「知らないわよ! この艦に、そんな兵器は存在しない! あんた、一体何をするつもりなの!?」
問い詰めるセリアを、オビは完全に無視した。
『マテリアル粒子生成。 座標指定、散布開始。
続いてマテリアルフィールド形成準備。
散布完了後、圧縮工程へ移行』
作業報告は、あまりにも事務的。
まるで、日常業務の延長のように。
『カラミティバースト、準備完了。 いつでも発動可能だ』
……発射、じゃない。
発動。
その違いが、嫌な予感として背筋を撫でる。
「よし」
俺は短く言った。
「発動」
『カラミティバースト、発動』
その瞬間――
モニターの向こうで、宇宙そのものが歪み始めた。
■■■
「ボス、戦闘区域全域でマテリアル粒子の濃度が上昇してます」
ゴブリンのボスは、その報告に舌打ちした。
「ちっ……厄介な」
マテリアル粒子。
通信障害、センサー異常、誘導精度の低下。
宇宙では稀に観測される自然現象だが、戦闘中に起きるには最悪のタイミングだった。
「信号弾を撃て。オーク共にもだ。今は争ってる場合じゃねぇ」
この状況は、敵にとっても同じはずだ。
粒子濃度が下がるまで、戦闘は成立しない。
「ボス、戦闘区域中心で爆発が発生しています」
「それがなんだ?」
粒子の影響で、弾頭が誤爆することはある。
「……そ、それが。爆発が、消えません」
「は?」
モニターに映し出された光景に、ボスは目を細めた。
爆発は終わらない。
膨張でも拡散でもない。増えている。
「中心の爆発域が……拡大しています。このままでは本艦まで――」
「そんなバカな」
否定の言葉とは裏腹に、モニターの数値は嘘をつかない。
その時、ノイズ混じりの通信が割り込んだ。
「G126だ! 助けてくれ! 爆発が――」
悲鳴は、爆音にかき消された。
混戦宙域を飛び回っていた、味方ゴブリン戦闘機からの通信だった。
「……離脱する。戦闘区域から離れるぞ!」
「ですがボス! マテリアル粒子の影響で、動力機関の性能が半減しています!
このままでは――」
「構わん! フル稼働だ! 壊れてもいい!」
生き残れれば、船はいくらでも手に入る。
そう判断した直後だった。
「ボス! 進みません!」
「何だと!?」
「戦域全体を覆う……フィールドを確認!
数値が……通常の防壁じゃありません!」
「ふざけるな! こんな広域を覆うフィールドが――」
言い終える前に、艦が揺れた。
爆発が、近い。
外装が悲鳴を上げ、警告音が艦内に満ちる。
――終わりだ。
そう理解した瞬間、視界が白に塗り潰された。
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