表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Obliterator  作者: んご
7/12

第7話 Void

魔王城の回廊は、冷たい闇と静寂に満ちていた。


前を行く青年――シエルは迷いなく進み、

その後ろでリーナが必死にその背を追う。


だが、唐突に仕掛けが作動した。

壁の隙間から無数の矢が一斉に射出される。


「きゃ──!」


リーナへと殺意の雨が降り注ぐ瞬間、シエルが身を投げ出した。


突き刺さる衝撃。右手に焼けるような痛み。


「シエルさんっ!? すぐ治します!」


リーナが震える手で回復魔法を施す。

淡い光が傷を閉じていく。


「……ごめんなさい、私のせいで……」


「気にするな」


落ち込む彼女に、シエルは淡々と言った。


しかしリーナは首を振る。


「分かっています。私、足手まといです。

 でも……家族や、大切な人を守るために、

 ここまで来たんです。

 だから、諦めたくない」


その瞳に宿る強い意志。

シエルは、ほんの少しだけ目を見開いた。


「……やっぱりすごいな。リーナは。

 ちゃんと自分に価値を持ってる。

 俺には……それがないから」


「それは違います!

 シエルさんにはあります。優しい所とか、たくさん!

 …何度も言ってるのに、あなたは気付かないふり…」


真っ直ぐ返された言葉に、シエルは視線を逸らさなかった。

彼女の肯定に慣れてきた自分に不思議な気持ちがする。


リーナはぎゅっと拳を握った。


「とにかく、もう……足手まといにはなりません」


「大丈夫。守るよ」


シエルは淡く笑う。


「……だって俺、勇者なんだろ?」


リーナが息を呑んだその瞬間、彼は歩き出した。

魔物の群れを斬り伏せ進む。


城の最奥――巨大な扉を押し開く。



玉座の間。黒い鎧の巨躯が、ゆっくりと立ち上がる。


魔王――その存在だけで世界が軋むほどの圧。


「ここまで辿り着いた者は、お前が初めてだ」


シエルの体が自然と強張った。

大柄な自分が、小さく思える。

まるで影に呑まれたかのようだ。


「せっかくの客だ。

 もてなすには、ここは狭すぎる」


魔王が指を鳴らす。

景色が歪み、あたりは荒れ果てた大地へと姿を変える。


空間を削るほどの殺意。

沈黙の圧が二人を包む。


…一歩。


同時に大地を蹴った。


剣と剣がぶつかる甲高い音が、焼けた大地に反響した。

荒野の中央。血と泥に塗れた二つの影が、互いに息を荒げながら向かい合っている。


一人は黒い鎧の巨躯。

圧倒的な魔力が身体を取り巻き、立っているだけで大気が震えていた。


もう一人は白銀の鎧を纏った青年。

両手で剣を構え、ふらつく膝に必死の力を込め、なおも魔王を真正面から見据えている。


風が吹き、焼け焦げた草が揺れた。


「……これで終わりだ」


黒い鎧の巨躯――魔王が大剣を振り上げた。

青年は歯を食いしばり、折れかけの身体を前へ押し出す。


「──まだ……終われるかよっ!」


張りつめた空気を切り裂き、青年が最後の力で駆け出す。


瞬間、眩い光が二人を飲み込んだ。

巨大な影と小さな影が交差する――そこを境に、世界は白く塗り潰された。


光が収束した時、立っていたのは魔王。

シエルは血を吐き、膝をついていた。


「シエルさん!!」


魔王が嘲るように言う。


「人間とは思えぬ力……だが我には及ばぬようだ」


「……くっ……!」


「ここまで高揚したのは久しい……

 だが、それも終わりだ…死ね」


魔王が剣を振り下ろす。


──斬撃の感覚はない。

だが、温かいものが腕へと広がる。


目を開いた時、目の前にいたのは――リーナだった。


「……え?」


彼女は微笑み、静かに崩れ落ちる。


「リーナ!!」


震える両腕で抱き留める。

止まらない血。

止まらない現実。


「やっぱり……足、引っ張っちゃいましたね……」


「喋るなっ!血が……止まらない……!」


必死に押さえる手を、リーナは弱く押し返す。


「……あなたなら魔王を倒せる。

 それは……私の大切な人たちを守ることになる……

 あなたを守れて、……よかった……」


最後の息が、空へ消えた。


──笑顔のまま。


シエルの喉から、音にならない叫びが漏れる。

魔王の嘲笑が、世界を踏みにじった。


そして。


胸の奥から、濁った何かが溢れだした。


怒り。

憎悪。

悲しみ。


否定された価値が、黒い炎となり、魔力へと変貌する。


「…………ッ!」


魔王が一歩退いた。


次の瞬間。

漆黒の魔力を纏ったシエルの斬撃が、世界すら断ち割る勢いで振るわれ──


魔王は、音もなく消し飛んだ。



どれほどの時が経っただろう。

シエルは立ち尽くしていた。


うつむき、顔は見えない。

だが、その身を包む魔力は――


漆黒。


その姿は、紛れもなく。


世界が畏れた 魔王 そのものだった。

第7話を読んでいただきありがとうございます。

この先の展開も楽しんで頂ければ嬉しいです。

第8話は12/25、13時に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ