表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Obliterator  作者: んご
6/12

第6話 Confrontation

吐き出した白い息が朝の冷気に溶けていく。

城門前の広場では、武装した兵士や魔法使いたちが慌ただしく動き回っていた。


遠征部隊、およそ五十名。

鎧の擦れる音と、緊張で強ばった声が入り混じる。


その喧騒の中で、シエルはひとり考え込んでいた。


魔王を倒せば、世界は救われる。

あの時の光…あれは、本当に俺にその役目を託したのか?


力を与えた存在。

それが善か悪かもわからないまま、ここに立っている。


「シエルさーん!」


はっと顔を上げると、リーナとカイトが駆け寄ってきた。

見送りに来てくれたのだと、胸の奥が少し温かくなる。


だが、リーナの衣装を見て言葉が止まった。

白いローブの袖には、遠征隊配属を示す青い紋章。


「リーナ……それ…」


「言ってませんでしたっけ? 

 私も後方支援として同行するんですよ」


さらりと言う彼女に、シエルは目を瞬かせるしかなかった。


「初耳だ……」


「ごめんなさい…本当はずっと前から決まってたんです。

 でも、言ったら心配すると思って」


気まずそうに俯くリーナ。

シエルは、ほんの少しだけ胸が痛んだ。


「……自分の意志なんだろ? 

 なら、俺には止められない」


顔を上げたリーナは、いつもの強くて優しい目をしていた。


「足手纏いにならないように気をつけます。

 でも、怪我した時は絶対に言ってくださいね!」


「わかった。頼りにしてる」


頷くと、リーナは嬉しそうに微笑む。


カイトがぎゅっと拳を握りしめ、シエルの前に立った。


「シエル…姉ちゃんを……頼む。

 絶対、守ってくれ!」


小さな手の震えは、誰より姉を想っている証だ。

シエルはその気持ちを受け止めるように手を置いた。


「ああ、俺が必ず守る。約束だ」


朝日が地平から昇る。

遠征の号令が響き渡った。

そして――魔王討伐の旅へ。



一行は魔王城を目指し出立した。


道中、魔物の群れに何度も襲われる。

シエルはすべてを切り伏せた。

斬るたびに力が増し、身体が 馴染んでいく。


だが、魔王に近づくにつれ魔物は凶悪になり

少しずつ仲間は減っていった。


骸が増えるたび、シエルの心はすり減っていく。


(俺がもっと早く倒せていれば……)


魔王城まで到達したとき、気付けば残った同行者はただ一人、リーナだけであった。


失いたくなかった。


「……リーナ。魔王城の中は危険だ。俺が一人で行く」


「そんなの駄目です! 

 こんな場所に一人で置いていかれる方が

 よっぽど死んじゃいます!」


まさに正論、反論の余地はない。

シエルは息を吐き、彼女の瞳をまっすぐ見つめた。


「絶対に……俺から離れるな」


「……はい」


 弱い声。だが、そこにあるのは確かな覚悟。


 二人は並んで、漆黒の城門の前へと歩みを進めた。



 空は暗く沈み、風は止み、魔王城は静かに彼らを待ち受けている。

 シエルは剣を握り直し、胸の奥に燃える小さな火を信じた。


(俺の価値は……ここにある)


その決意はまだ脆い。

けれど確かに、彼は前へ進む。

第6話を読んでいただきありがとうございます。

この先の展開も楽しんで頂ければ嬉しいです。

第7話は12/24、13時に投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ