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Obliterator  作者: んご
3/12

第3話 Descent

石造りの城の王座の間。

豪奢なのに、どこか血の匂いが残る場所。

シエルは兵士たちに囲まれ、その中心に立たされていた。


「……一人で、魔物の群れを?」


玉座に座る国王が眉をひそめる。

驚嘆と、警戒が混じった眼差し。

兵士たちの報告を聞き、信じがたいという表情だ。


「はい。気づいたら……そうなっていました」


「どこから来た?」


問われ、シエルは正直に答えた。

この世界には存在しない国の名。戦争の光景。


自分はそこで死んだと思ったら光に包まれ、そして、言語で はない何かの接触、そして気がつけばそこにいたこと。


「そんな話、信じられるか、怪しい奴め!」


王の号令とともに、兵士が剣を突きつけた。

シエルは抵抗しなかった。

自分でも信じられないのだ。


冷たい牢へ放り込まれる。



暗闇。

石壁の冷たさが、逆に現実を突きつけてくる。


(あれは……何だったんだ?

 確かに俺は本当に死んで……光に包まれて…

 それに見たこともない化け物たち…)


胸に渦巻く疑問と不安を整理している時、

ふと、足元が大きく揺れた。


「っ!?」


暗闇の牢に、突如として揺れが走る。

ゴゴゴゴゴッ——地響き。

砂がぱらぱらと天井から落ちる。


「な、なんだ!?」


外から怒号と悲鳴が入り混じった。


「ドラゴンが来たぞォーーーッ!!」


兵士の絶叫。

次いで、地を割るような咆哮。

牢の鉄格子の隙間から、影が覆い被さるように迫ってくる。


巨大な翼。黒い鱗。炎の息吹。


天も地も震え、火柱が上がった。

兵士と魔法使いが応戦するが——


「魔法が効かない!?」

「う、うわあああっ!」


悲鳴が途切れる。

街の塔が崩れ落ちる音が、耳をつんざく。


炎が街を焼く。

兵士や魔法使いが反撃するが、その力はまるで通じない。


次々と倒れていく人々。

泣き叫ぶ子供。

崩れる塔。


鉄格子の隙間からその様子を見て確信する。


(やっぱりここは……俺のいた世界じゃない)


次の瞬間。

ドラゴンの爪で弾かれた巨岩が牢へと迫る。


 「――っ!」


耳鳴り。

割れた壁。

外へと開いた穴から、シエルはよろめきながら這い出た。


そこは地獄絵図だった。

焦げた匂い。

赤く濁った地面。

絶望。


ドラゴンがシエルを見つけ唸りを上げる。

炎の奔流が迫る。


(走れ!)


シエルは転がるように避けた。

足元に転がる剣を掴む。


振り返れば巨大な怪物の影。

震える膝を叱咤し、刃を構える。


(怖い……でも)


踏み潰そうとドラゴンが足を振り下ろす。

咄嗟に身を翻し、反撃の刃を振るう。


ズン、と重い手応え。

ドラゴンが呻き、血が滴る。


(なんだ、この力は……でも…行ける!)


再び炎。

熱。痛み――しかし、その中を突き抜けた。


「うああああああっ!!」


剣が、ドラゴンの首を断ち切った。

巨体が地面を揺らして崩れ落ちる。


静寂。

息を切らしながら立ち尽くすシエル。


「勇者だ……! 勇者が現れたぞ!」


国王の声と歓声。

だがシエルは、周囲の光景を見て震えた。


家族の死を嘆く人々。

手を伸ばしたまま冷たくなった兵士。

助けを乞う声は、もう届かない。


(俺が……もっと早く……)


胸が締めつけられる。

それは悲しみと自責の混じる

守れなかった、という痛みだった。


第3話を読んでいただきありがとうございます。

この先の展開も楽しんで頂ければ嬉しいです。

第4話は12/21、13時に投稿予定です。

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