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Obliterator  作者: んご
12/12

第12話 Obliterator

――臨死の淵、彼の心が崩れていくのを見ていた。


空っぽになっていく。

価値を自分で削り続け、底へ底へと沈んでいく。

 

あれでは魂が壊れるかもしれない。

だが――それでも、彼しかいなかった。


魔王を止める術はそれ以外に残っていなかった。


だから上位存在は決断した。

彼に触れ、力を与えることを。


心を支える仲間がいる。

いざとなれば転送装置もある。

彼ならば「最後の希望」になれる――そう信じて。


だが彼の心は、あまりにも深い闇だった。

永遠に価値を下げ続ける臨死の思考は、まるでブラックホール。


与えた力は奪うように吸われ、膨張し、

無限に近い形で膨れ上がる。


今にして思えば、それほどの力でなければ

魔王を止めることなど不可能だったのかもしれない。



世界を焼く光の中で、魔王は思った。


(……俺は、消えたのか?)


千年積み上げた憎悪も、怒りも、悲しみも。

それらはあまりにあっけなく呑み込まれた。


(千年……何をしていたんだ、俺は。

 結局俺には、何も……)


その時。


闇の底に、懐かしい声が降りてきた。


『シエルさん――』


(リーナ……?)


暗闇がほどけ、微かな光が満ちていく。


目の前には、温かい笑顔のリーナがいた。


「シエルさん。

 やっと……また会えましたね」


「リーナ……俺は……すまなかった。

 お前も、カイトも、守れなかった……」


「いいえ。

 あの時、あなたに守られた人はちゃんといましたよ」


シエルは目を伏せる。


「……だが、俺は世界を壊そうとした」


「ほんと、ちょっとやりすぎですよ?」


「……」


たしなめるようなその声が、やけに優しい。


「あなたのしたことは、許されないかもしれません。

 でも……辛かったですね。

 ほんとうに、よく頑張りました」


抱きしめられた気がした。


あたたかい。

懐かしい。

 

千年の孤独が溶けていく。

求め続けていたのは復讐ではなく――

ただ、この温もりだったのかもしれない。


気付けば魔王の姿ではなくシエルの姿に戻っていた。


「……それでも、俺の罪は消えない」


「なら、やり直せばいいんですよ。

 ほら、彼もそう言ってます」


リーナが視線を上げる。


そこには、上位存在の気配があった。


感情がないはずの存在が、後悔していた。

ひとりの人間、シエルを闇に落とし、狂わせた。

己の過ちを認め、謝罪し、救いたいと願っていた。


「……俺は、やり直せると思うか?」


「あなたが望むなら、きっと。

 だってシエルさんは……誰よりも優しい人だから」


「リーナ……」


彼女はそっと微笑む。


「シエルさん。私たちは、きっとまたどこかで会えます。

 それくらいは、彼にしてもらわないとね」


光が満ちた。


闇は溶け、千年の痛みが静かに消えていった。


 ――そして。



現世


病院の受け付け。


「間倫太郎さん、間倫太郎さーん」


呼ばれた青年がカウンターへ向かう。

包帯越しにまだ重さの残る腕を揺らしながら。


「退院おめでとうございます。

 次の受診は来週です。お大事になさってください」


「はい。ありがとうございます」


病院の玄関を出ると、出産を終えたばかりらしい夫婦が看護師と話していた。

 

母親の腕には小さな赤ん坊。


倫太郎は自然と目を向ける。

赤ん坊は安らかに眠り、母親は幸せそうに微笑んでいた。


「名前、決まったんですか?」と看護師。


「はい。

 空って名前にしました。

 この青空みたいに……

 広い心で優しい子になりますようにって」


倫太郎は、少しだけ優しい表情になって歩き出した。


季節は冬のはじまり。

その日に限って、不思議なほどあたたかく、爽やかな風が吹いた。



かつて、勇者と呼ばれた男は

大切なものを失い、闇に堕ちた。


世界を消し去りたいほどに憎んだ。


しかし――心を取り戻した彼は、

ようやく自分を許すことができた。


消えたのは世界ではなく、

長い長い憎しみだった。


Obliterator ――完


Obliteratorを最後まで読んでいただき、読者の皆さまへ、心より御礼申し上げます。


『Obliterator』は『Remainer』のスピンオフであり、同時に補完としての役割を担う作品です。

Remainerはテンポを最優先した構成にしたため、あえて深掘りしなかった設定や背景がいくつか存在しており、それを魔王というキャラクターに焦点を当てて描きました。

Rremainerとは異なり、ダークな雰囲気となった本作はお楽しみいただけたでしょうか?

次回作は、長編作品を予定しています。

おそらく来月か再来月ぐらいには投稿しようと考えています。

ぜひ次もお読みいただけますと幸いです。


改めまして、最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


んご。

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