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Obliterator  作者: んご
10/12

10話 Prelude

光の泉は、静謐な気配に包まれていた。

その中心、淡い輝きが凝縮し、ひとつの輪郭を形作る。


 ――アリア。


彼女は目を開けた瞬間に、自分が何者であるかを理解していた。

『上位存在』の一部として生まれた。

その使命だけが、初めから魂に刻み込まれていた。


しかし――それ以外は何も知らない。

自分の本体である上位存在の姿も、声音も、記憶も。

あるのはただ、与えられた役目だけだった。


まず確認すべきは、魔王の現在。

世界に流れる力の脈動を辿ると、かつて王都だった場所に、

巨大な闇の塊が根を張っているのが分かった。


「……結界。厄介ですね」


その内側までは読めない。

それでも漏れ出す気配だけで、

悠長に構えている暇がないことだけは理解できた。


アリアは協力者を探し、まず妖精たちの地へ向かう。

彼女の姿を見た妖精たちは一瞬で理解した。


神々しい気配をまとう存在。

理由は分からずとも、彼女を女神として迎えることを即決した。



最初の仕事は――転送装置の製作。

世界の理を扱うそれは、完成自体に時間はそうかからなかった。


「ついに完成しましたね。

 名称は……そうですね。

 インフィニティ・ディバイン・トランスポーター!」


得意げに言ったアリアの言葉は、即座に妖精たちに却下された。


「名前が長すぎる」「覚えられない」「ダサい」

「意味が分からない」「恥ずかしい」


多数決で負け、結局シンプルに“転送装置”と名づけることになった。


「アリア様って……そういう派手なの、好きなんですか?」


「分かりません。

 でも……心が惹かれるのです。

 響きが、かっこよくて」


理由は分からない。

けれど、胸の奥に妙な憧れの影が残る。

それは――かつての少女の名残だったが、アリアは知らない。



転送装置の機能はふたつ。


一つは、現世で死んだ勇者候補を異世界へ転生させる儀式を起動すること。装置を作動させておけば自動で転生が起きる。


もう一つは、その儀式の案内役として妖精を現世へ送り出すこと。つまり、異世界間を繋ぐ扉の役目。


だが――アリアは知らなかった。

上位存在が組み込んだ“もう一つの本来の機能”を。


いざという時、勇者に与えた力を上位存在へ転送し回収する。

つまり、安全弁としての 力の奪還機構 が備わっていた。


魔王に与えた力は、もう魔王自身のものになっているため回収不可能。

だからこそ、今度こそ取り返しのつかない事態だけは避けねばならなかった。


こうしてアリアの、長い勇者候補探しが始まる。比較的長寿である妖精達も代を変えていった。



一方その頃――魔王…


彼は長きの間、自らの闇を研ぎ澄ませ続けていた。

その黒き心は魔物たちの本能を魅了し、

気づけば彼の周囲には巨大な魔族の勢力が築かれていた。


それだけではない。

自らの中に残る上位存在の力の“残滓”で、微かな異変を感じ取っていた。


「……動いたな。あれが」


遠くで“何か”が誕生し、魔王を見つめ始めている。

その予感はすぐ現実となる。

諜報を放ち、彼は知った。


 ――女神が生まれた。

 ――転送装置なるものが作られた。

 ――勇者を探している。

 

「なぜわざわざ転生など……。

 なるほど、上位存在の“保険”か」


魔王はアリアよりも、ずっと深く上位存在を理解していた。

その行動原理も、恐れも、失敗も。


ならば、転送装置には何か決定的な手掛かりがあるはずだ。



あれから500年が過ぎた。

彼はひとり、静かに歩く。

あの場所へ向かい。


墓はとうに朽ち、残っていたのは大樹だけ。

その根元へ、魔王は静かに白い小さな花を置いた。


何も語らない。

だが――ここに来ると、憎しみも怒りも穏やかに燃え続ける気がした。


忘れずに済むのだ。

あの日の痛みも、喪失も。



さらに五百年の歳月が流れた。


ここから、運命の歯車が、静かに回り始める。

光の泉に身を置き、アリアはひたすら現世を観測した。

しかし、ヴェルグレイスと現世では時の流れが違う。


現世の100年はヴェルグレイスでの1000年に相当する。


この大きなズレは予想外だった。


アリアも焦りを覚えた。

いくら探しても、現世側では人々がほんの数年しか成長していないのだ。


「……まだ、生まれてすらいないの?」


そんな日が何度も続いた。


だが使命は変わらない。

アリアは光の泉の底で静かに目を閉じ、ただ気配を追い続けた。


やがてヴェルグレイスでは1000年が過ぎようとする頃、

アリアの視線の先でようやく一つの光が生まれる。

他とは異なる、善と透明な空洞を抱えた魂。


「……見つけた。

 この人なら、きっと」


間倫太郎(はざまりんたろう)


アリアの千年の孤独と、上位存在の期待と、魔王の長い沈黙が

ようやく一点に結びついた瞬間だった。


第10話を読んでいただきありがとうございます。

この先の展開も楽しんで頂ければ嬉しいです。

第11話は12/28、13時に投稿予定です

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