第八話「闇夜」
※この物語はフィクションです。登場人物、団体名、設定などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
前回からの、あらすじ。
魔物増加バーン! 調査決定ドーン!
調査隊壊滅バーン!作戦開始ドーン!
全て壊滅ドーン!
宗教黎明バーン!!宗教中興ドーン!!
ダークオークの重厚なデスク、革張りのオフィスチェアには、白衣を纏った、一人の女が座っていた。
女の名は、クリスティアーネ・ドゥルヒストリンゲン。
王立中央研究所の所長である。
金髪紫眼が飾り立てる、凛々しい顔は、今はデスクに隠れている、美しく引き締まった肉体とともに、豹のような魅力を放っている筈だった。
しかし、その顔には、隠しきれない疲れが滲み、普段ならば整然と片付けられているデスクの上には、膨大な資料が散らばっていた。
そのような様子なのは、彼女だけではない。
研究室に居る、ほぼ全ての研究員が、極度の疲労状態にあった。
そんな中でも、紙を捲る音、ペンを走らせる音が、途切れること無く響き続けている。
ふとした瞬間、鈍い落下音が響く。
クリスティアーネは、機械的に口を開く。
「…おい、ソイツを仮眠室に運んでやれ。
気絶された状態じゃあ、分析の邪魔だ。
あぁ、運んだ奴は直ぐに戻れ。そのまま寝落ちするなよ?」
研究室には、鬱屈とした笑い声が響く。傍から見たら、狂気に落ちた様な有様。しかし、これはデスマーチ中の研究所では、往々にして見られる光景であった。
過労により、自律神経が狂っているのである。
クリスティアーネは、眉を顰めて、眉間の間を揉み込む。
乾燥した指先の感触に、浮かんでくる乾いた笑いを堪えながら、忌々しげに呟いた。
「…クソったれの怪物め、貴様が我が研究所渾身の睡眠砲弾を無効化したせいで、此方は尻に火がついてしまったではないか…。
そもそも、特級怪物が誕生したのは、紀元前と目されているのに、王国の資料に、対処法なんぞ載っているものか!!
参謀本部の奴らめ、無茶を言いおって…我が古巣とはいえ、忌々しい。」
そして、深々と溜息を吐くと、再び資料分析に戻っていった。
つい最近、軍学校時代からの婚約者と結婚し、漸く子を生せると、そう思っていた矢先だっただけに、彼女の苛立ちは相当なものであった。
そんな近寄り難い様子のクリスティアーネに、臆さず話しかけに行く影があった。
「所長、国務省より、今期の全国魔物出現量定量調査報告書の傾向研究が完了しました。」
彼女は、気怠げに顔を上げる。
「アンナ研究員…そうか、もうそんな時期か。
結果を報告しろ。簡潔にな。
詳細は参謀本部のクソメガネどもに投げておけ。」
彼女の罵倒に、聞かなかった振りを決め込みながら、アンナは指示に従う。
「はい、所長はいつも、根掘り葉掘り訊ねてきやがりますので、詳細に説明しますね。
今期、ロイエンベルク歴333年6月から、34年1月までを、前期と比較しますと、全体的に約30%強の出現量増加が見られます。
また、それら出現量増加は、11月頃から顕著なものとなっており、魔境の活発化もこれに付随しておりますが、魔境外での自然発生的出現も増加しています。
11月以降の出現量増加は、全体の80%以上を占めていると見られており、等級も上昇傾向にあります。
報告は以上です。」
クリスティアーネは、大きい陶器のカップに、波々と注がれたコーヒーを、一息に呷ると、静かにソレを置きながら問いかける。
「確か、前期も、前々期と比較して、倍近い増加量だったな?」
アンナは、無言で肯定する。即座に、前期と前々期の傾向研究書を差し出すと、クリスティアーネは今期のものと、熱心に見比べ始めた。
10分程経つと、彼女はアンナへと顔を向け、静かに問いかける。
「アンナ研究員、君は、コレをどう見る?
私見でも構わないから、言ってみてくれ。」
アンナは、少しの間考え込むと、慎重に口を開く。
「…33年の11月頃から、全国的に、魔素濃度が上昇傾向に有ります。
是迄も増減することはありましたが、此処まで急速なのは、観測史史上、初めての事例です。
また、前期、前々期では、魔境の活発化は見られましたが、魔素濃度に異常は見られませんでした。
また、オーバーチュア作戦の実行、失敗が11月頃であった事を考えますと、両者には相関関係が見られます。
以上の観点から、魔素濃度の上昇は、オーバーチュアの失敗と、それに伴う特級怪物の活発化にある、と予測します。」
クリスティアーネは、深い溜息を吐くと、両手で顔を覆い、項垂れる。
しかし、直ぐに顔を上げ、言った。
「私も、その予測に賛成だ。報告書の備考欄に、その内容を纏めておけ。
これは、参謀本部とも共有しなくてはならない。
急げ、時間は我々の敵だ。」
アンナは、死んだ魚のような目で答える。
「分かりました。直ぐに作業を開始します。
…フヘヘ、何日帰ってないんだっけ…。
あ、帰っても、何もないやぁ…。」
そうして、少し足取り怪しく、コーヒーを取りに行きながら、壊れた笑いを零していった。
そんなアンナの様子から目を逸らしつつ、自身も1週間は帰れていない事を思い出しながら、再び資料に目を通し始める。
ふと、調査報告書を見ると、クリスティアーネの目に、ランデールの文字が飛び込んできた。
彼女は、独り言を呟く。
「ここの司令長官を、ハインツが務めているんだったな…。
彼奴を抑えて、首席に座り続けるの、めちゃくちゃ大変だった…。
…そういえば、彼奴、度々妙な知識を披露していたな。
彼なら、特級怪物への手掛かりを、何か知っているかも知れん…。」
疲れた頭には、其れが名案のように思えて仕方がなく、彼女は、直ぐに参謀本部宛の嘆願書を書き始めた。
ハインツの、中央研究所への出向を求める内容の其れは、ミハイルの手で受理される事となる。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体2週間に1話で投稿しています。
前後作も読んだ方が、時系列が分かりやすくなると思うので、オススメです。




