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責務の王国  作者: Chadenshisu
第二章「熱狂」
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第六話「過去」

風邪を拗らせ、そこから私用が重なり、更新が1か月近く止まる事態となってしまいました。

とってもゴメンナサイでした。

これからも、ロイエンベルク王国戦記シリーズを、よろしくお願いします。

 「見つからん…か。」


 見事な金髪をかき上げ、一人の男が呟くように漏らす。

額には、仄かに汗が滲み、ヨレヨレの軍服を気にも留めずに、捜査報告書を眺めていた。

そんな彼に、声を掛ける影があった。


 「レイド局長、まだ此処に居たんですか?

その格好、まさか寝てないのでは…」


 そこで言葉を切ると、訝しげにレイドの顔を見て、そして呆れたように言葉を続ける。


 「隈がない…家に帰ってないんですね。また奥さんにドヤされますよ?」


 「俺に、まだ妻は居ない。何度言ったら分かる、リリナ第3室長。」


 そう憮然と言い返すレイドに、リリナはピシャリと言い返す。


 「じゃあとっととくっついて下さい。焦れったくて仕方ないんですよ。何年待ってると思ってるんです?十年ですよ、十年。しかも同棲してる。

互いに何があるか分からない職種なんですから、はよくっついて、数カ月の後方勤務で次代を残したいんですが?」


 「そもそも、家に帰っても、その『奥さん』とやらは、今目の前に居るのだから、誰も居ないじゃないか。

それよりも、今はフリードリヒ大公閣下の捜索が急務だろうが。

俺達が早くくっつく為にも、我等が王家の為にも、一刻も早く、閣下を見つけなければならない。」


 報告書を置き、地勢図を広げると、リリナも、堪忍したように其れを覗き込む。

先程の甘い空気は霧散し、そこにはプロの軍人達が居た。

半刻も経てば、他の局員も昼勤に訪れ始め、王立参謀本部隷下、王国軍情報本部局は、2交代12時間勤務24時間体制での稼働を開始していた。

すべては、王族にして、王国軍元帥、フリードリヒ大公殿下の捜索の為に。



 微睡む意識。溶けるような感覚器官は、朧気に、浮遊感をもたらし続ける。

A軍集団、B軍集団。そんな単語が、意味も分からずに浮かんでは消え、意識を向けようとすれば解けていく。


 どれだけの時間が経ったか。否、遡ったのだろうか?

やがては光が見えてくる。その先には、今とは全く違う景色。

しかし、ロイエンベルクの周りには有り触れた景色でもある。


 中世的と言うのが適切であろう。だが、そこにあるべき、汚物の類が無く、奇妙なほどに整然と整っていた。

街をグルリと囲む城壁、その門には、前近代的な長槍である、パイクを備えた衛兵が立っている。

門の前には、長蛇の列があり、その衣装は多種多様であった。


 ある者は馬車を率い、ある者は腰に曲刀を下げている。

ゴツい体躯の益荒男は、ロイエンベルク王国軍の精鋭でも、十全に振るうのは難しいであろう大剣を背負っていた。

明らかに防御力の足りない防具を身に着けた、しかし武装している女性も居る。

戦闘をやるようには、とても見えないが、周囲の向ける視線は、恐れを含んでいるようだ。


 彼等は、衛兵に、何か水晶のようなモノを見せられると、そこに手を当てる。

光らなければ通ることが出来、光れば追い返されているようであった。


 そこで意識が移ろう。同じかも分からない街の中央部では、とある人間が演説しているようだった。

音が世界に戻り、内容が脳裏に飛び込んでいった。


 「世界は危機に満ちている!今この時ですら、近傍の村が魔物に押しつぶされ、街道では商人が食い千切られ、魔境では冒険者が血飛沫をあげ、塗れている。

これを危機と言わずして、なんと言うか!?

見よ、この安寧たる街は、確かに素晴らしくも、しかして外界の断末魔で成り立っているのだ!」


 先程の門を潜り抜けて来た人々の中には、足を止めて演説を聴くものも出始めた。


 「人々はマナを操り、そうして魔物に対抗する。だが、それでも敵わぬ、人は魔物に喰われる、これこそは、直視しがたい一つの真理であろう!

されど安心されよ、人は死ねば終わりか?

否、断じて否である!人はそのような無価値な存在ではない!人ほど尊きモノは、この世に2つとして創られては居ないのである!」


 徐々に、足をとめる人が増えていく。見ると、肯く者も出始めている。


 「英霊の御霊は、偉大にして絶対、神聖にして不可侵なる存在の腕に抱かれ、天界にて来たるべき時を待つのだ!

これは世の真理だ、諸君も感じるであろう、偉大なる我等が唯一神、その暖かさを!」


 早朝が明け、陽の光が密かに広場を照らし始めていた。

当然、場は暖まる。だがタイミングが良ろしくない。

観衆は、それだけでなく、広場を行き交う人々は、確かに暖かさを感じてしまったのだ。


 民衆は盛り上がり、興奮は伝播する。抑えようも無く、確かな圧力を持って。


 「今、暖かさを感じた者は幸いである!

その者は祝福され、我等ネルキア教に、魂から信仰する、真に天界に迎えられるに相応しい者である証左に他ならないからだ!

感じられなかった者は、天界に迎えられるに値しない。

地獄に落ち、我等がネルキア、そしてエデンを見ることは敵わない。

だが、案ずることは無い!」


 日向に居たものは歓喜し、日陰に居たものは悲嘆に暮れる。

馬鹿らしくも真剣な光景が、そこには広がっていた。


 「我等の救世主たる、イリスティウス・ネルキアは、決して誰も見捨てない!

ネルキア教に入信する事で、諸君らは祝福され、天界への切符を手にするのだ!!」


 場は等しく興奮と安堵で包まれていた。広場は群衆で埋め尽くされ、物流は滞っていたが、その街を治める領主すらも、演説に聞き入っていたのだから、何の問題も無いのだろう。


 「さぁ、諸君、我等ネルキア教と共に、来たるべき終末、ネルキアに導かれて訪れるエデンに生きる為に、希望を捨てずに生きようではないか!

それこそ、主が望まれし事である。

父なる神よ、我らを救い贖い給え、スペーロ。」


 「「「スペーロ!!」」」


 民衆は、声を張り上げて、願いの言葉を叫ぶ。

これは、この街だけでない。多くの地で似たような事が起きている。

そう直感すると同時に、意識は再び沈み込み、さらなる過去を映し出す。


 「「「「殺せ!殺せ!殺せ!」」」」


 埋め尽くさんばかりの民衆が、二本の柱に、腕と足を縛りつけられた男に、石を、唾を、土を投げかけ、罵り、殺意を込めている。

直感する。これは、あの街から百年ほど遡った景色であると。


 古典的でありながらも、華美な衣装に身を包んだ男が、柱の前に作られた台に上がり、声を張り上げている。


 「静まれ、静まれ!今より、罪人、イリスティウスの、民衆裁判を始める。

今この時、彼の処刑を求める者は、声を上げよ!」


 一時も静まる事なく、熱に浮かされたように、大音声があげられる。

大地が揺れ、小石と砂埃が舞い散るほどの轟音。

込められるのは、憎悪と後悔。


 「諸君らにより、イリスティウスの罪は暴かれた!

この者は、ルストを騙り、太守にすら取り入った。

しかし、救済は訪れたか!?今此処に広がるのが、我等の求めたオルハンであるのか!?

我々は、そんなもの認めない!イリスティウスは、救世主でも何でもない、我々に破滅をもたらす、悪魔である、悪魔は処されなければならないのだ!」


 興奮は抑えがたいものとなり、一つの結果へと収束していく。

処刑人が槍を構え、しばらくのタメの後に、魔力を込めて突き出す。

血飛沫と臓物が舞い、一つの命、その輝きが確かに失われる。

歓声が弾け、それと同時に、意識が霧散していった。

本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。

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